「依央くん、これは……」
目の前の女の子のひとりがそう言って怯んだところで、依央が彼女に近付いていった。そして依央は、彼女の髪の毛を横から思い切り掴んで、床に向かって彼女をなぎ払った。
彼女が床に倒れこむ。その様子を見た残りのふたりが硬直して、顔を見合わせている。
「だから、何やってんのって、聞いてんだけど」
依央は残りのふたりに向かって、威圧的に言った。取り巻きの女の子たち3人は、その場を動けずにいるようだった。
「イオったら、暴力的だね」
そのとき、すこし離れたところから声が聞こえてきたので、そちらの方に目を向ける。
非常階段のところでスマホを弄っていた須藤さんがいつの間にか顔を上げていて、脚を組み直しながらこちらをじっと見つめていた。
その隙に、取り巻きの女の子たち3人は逃げていった。優雅に座ったままの須藤さんは、そんな彼女たちを気にすることもなく、私と依央の様子をその視界に閉じ込めている。
「マナ、これ、どういうこと?」
依央にマナ、と呼ばれたその子は、この期に及んで感情を揺さぶられているわけでもないらしく、ただ私たちを俯瞰しては、気だるげな様子で脚をもう一度組み直していた。
というか、依央はどうしてここに来てくれたのだろうか。そんな疑問ばかりが頭をよぎる。けれどそんなことを尋ねられる雰囲気ではないので、私はただ、依央と須藤さんの様子を眺めることしかできない。


