目の前にいる彼女がだんだんと可哀想になってきた。こんなにも切迫している様子の彼女を置いて、悠々と昼休みを過ごす自分を想像すると、自分が悪者になったような気がして、気分が悪くなる。どう考えても、悪者は内田さんの方なのに。
私は諦めて、わかった、行くよ、と言った。その瞬間、彼女は水を与えられた魚みたいに目を輝かせて、ありがとう、と言ってきた。
別に良いのだ。別に彼女たちのところに行って、昼休みの残りの40分が過ぎるのをただ待ちさえすればいいのだ。痛いのは嫌だが、痛いだけだ。そのあとに夏目先輩のところにでも行けば、嫌な感情はほとんど薄れるのだから、だったら内田さんよりか、私が被害者になった方がいい。
私は立ち上がって、内田さんの後ろをついて行こうとした。彼女の足取りが妙に軽く感じられて、何だか腹立たしい。
「おい、待てよ」
教室を出るとき、私は突然肩を掴まれた。後ろを振り返ると、そこには依央が立っていて、彼は怪訝そうな表情をしながら私を見下ろしている。
多分、私と内田さんが発していたただならぬ雰囲気を、さっきから不穏に思っていたのかもしれない。
えっと、と声を詰まらせて返答に迷っていると、内田さんが私の手を思い切り引いた。
「早く行こう、時間無くなるから」
「あ、うん……」
内田さんは私を依央から引きはがした。依央の手が私の肩から離れて、だらんと下に下がる。
私は依央に、ごめん、とだけ言って、手を引かれるがままに内田さんについて行った。依央は別に追いかけてはこなかった。


