「内田さん、私、行かないよ」
だって、痛いの嫌だし。
と思ってそんな言葉を彼女にかけると、彼女は取り乱したように私に縋りついた。ごめんなさい、でも、そうしないと、私、と言葉にもならない言葉を発する内田さんを、払いのけることができなかった。
そのとき視界の端に、教室内にいた依央の姿が映った。彼はぎょっとしたような顔をこちらに向けていたが、何をするわけでもなかった。
私は視線を目の前の内田さんに戻した。
内田さんは唇をギリギリと噛んでいる。私はそっと、私に縋りつく内田さんの腕を掴んで、引きはがした。
その時だった。
内田さんの手首に、無数の切り傷が横方向に刻まれているのが見えてしまった。
所謂、リストカットというものだろう。それを認識した瞬間に、私は全てを察した。
ああ、そういうことか。私が須藤さんたちのところに行かないと、今度は内田さんが標的になってしまうのだろう。だから内田さんは、必死になって私を須藤さんのところに連れて行こうとしているのか。
目の前の彼女の醜さに吐き気がした。けれど、そんな暴力被害の押し付け合いは、どこかで終わらせなければならない。結局、私が須藤さんのところに行かなければ、内田さんがあの子たちから暴力をふるわれるのだ。
だとしたら、内田さんも内田さんだ。あんな姑息な手を使って私を須藤さんのところに連れて行こうとせずに、正直に、"私の身代わりになってください"くらいのことを言ってのける度胸はないのだろうか。まあ、そんな度胸があれば、彼女はそもそもいじめられていないのだろうが。


