「あ、あの、えっと」
何だか野暮ったい、眼鏡をかけた女の子が、私の前で何かを口走っている。私は彼女の言葉を理解しようとする気にもなれず、彼女の長いスカートが揺れるのをただぼうっと眺めていた。
昼休みにまたも私の前に現れた、地味な感じの女の子、内田さんがぱくぱくと口を動かしている。金魚みたいだな、とかそんなとりとめのない思考を巡らせた。
彼女はこの間の昼休みに、私を売った子だ。
彼女に言われるがままについて行った先で、私はあの派手な女の子たちから暴力を受けたのだ。私はまだ、内田さんが私を置いて走って逃げて行ったあの後ろ姿をはっきりと覚えている。
「す、須藤さんたちが、あの、あなたのこと、また呼んでて」
「須藤さんって、誰?」
「あの、この間の……」
私は、非常階段のところでずっとスマホを弄っていた、リーダー格っぽい女の子の姿を思い出す。あの子が、須藤さんというのだろうか。
それで、何なのだろう。内田さんはどうして、凝りもせず私のところにやってきては、あの子たちのところに行って欲しい、だなんて言うのだろうか。
「それって、行かなきゃだめなの?」
彼女にそう問いかけると、彼女は泣きそうな顔をしながら頷いた。彼女がそんな顔をする意味がわからなかったので、私は自分の席についたまま、立ち上がる気になれなかった。


