私の言葉を聞いた彼は、それから黙って、私のことを丁寧に抱いた。
私の身動きを封じることも、腕を思い切りベッドに押し付けることも、噛み跡をつけることも、ないしは首を絞めることさえしなかった。まるで腫れ物を扱うかのように私に触れる綾人くんに対して、私は不信感を抱いた。
私は彼との、苦痛と快楽がみだらに混じった行為が好きだったのだ。これじゃあ、綾人くんに抱かれている意味がないので、私は彼に手を伸ばしながら声を絞り出した。
「綾人くん、どうして今日は、首を絞めないの?」
「お前、いつも苦しそうにするじゃん」
何よ、それ、と思った。いつも、それを好んでしていたはずなのに、どうして今更そんなことを言うのだろうか。
「快楽と死は隣り合わせにあるって、教えてくれたのは綾人くんでしょう? 私に性欲の崇高さを説いてくれるんじゃなかったの?」
「……くそ」
私の煽りに対して、彼は苛立った様子をみせた。そして私の首に両腕を伸ばしてくる。
途端、呼吸の出入り口が断たれた。
いつもの、呼吸口を狭めるような生半可な絞め方じゃない。力強く、私の呼吸を本気で止めてこようとするような、そんな乱雑で危険で、手加減のない行為によって、私の全身が悲鳴を上げた。
ひどく苦しくて、目からは涙がこぼれた。綾人くんは表情を変えない。けれど私は、自分の身で受け入れられないくらいの快楽が押し寄せてくるのを、確かに感じていた。


