「綾人くん……」
「……」
彼は黙って、私の身体をじろじろと見ている。私は瞬きを繰り返しながら、彼の言葉を待ったが、彼は口を開こうとしない。
「綾人くん、怒ってるの?」
「怒ってはないけど、イライラしてる」
それって、怒っているのと何が違うんだろう、と思ったが、それは口には出さなかった。彼は私の膝にできた赤黒い痣にそっと触れながら、唇を噛んでいた。
「何にイライラしてるの?」
「全部だよ」
「それって、私も含まれてる?」
「当たり前だろ」
彼は私の身体を自分の方に引き寄せて、口づけを落とした。彼の舌が私の口内に侵入してくる。いつものような貪るようなキスじゃなくて、私の様子を伺っているような、そんな、ずいぶんと消極的なキスだった。
彼はすぐに顔を離した。
「お前の身体は、俺のものだろ。何で、こんなにやすやすと傷つけられてんだよ」
むかつくんだけど、と言って彼は私を責め立てた。
私の身体は、私のものだよ。綾人くんには、関係ないじゃない。どうして、綾人くんがそんなに傷付いたような顔をするのだろうか。
いつも彼は、私の身体を噛み跡と痣だらけにする。それがただ、あの子たちつけられたものに変わっただけだろう。
「じゃあ、私、どうすれば良かったの?」
目の前の彼にそう問いかけると、彼はまた黙り込んでしまった。
綾人くんだって、夏目先輩と祥平と、何も変わらないじゃないか、と思った。私を心配しているふりをしていても、表立って何かをしてくれるわけじゃないのならば、もうこれ以上私を困らせないでほしいと、そんなことばかりを考えていた。
多分、一番無責任に事態を俯瞰しているのは私の方だった。


