性、喰らう夢




 そのまま数分、部屋には沈黙が流れ続けたが、先に折れたのは綾人くんの方だった。



「もういい。持ち帰れよ。祥平と一緒にいるときにでも食えば」



 彼は不服そうな、それでいて諦めを含んだような表情を引っ提げながら、ビニール袋の中から自分のものらしい食べ物を数個取り出したあとに、残りを袋ごと全部私にくれた。

 ビニールの中には、先ほど買ってもらったゼリー飲料のほかに、ブロック形状の栄養食品、それに栄養ドリンクが数本、入っていた。コンビニで彼がかごの中に無作為に入れていると思っていた食べ物は、ほとんどが私のためのものだったらしい。

 それを見て、私は喉の奥がつっかえたような苦しさを覚えた。

 彼は彼なりに、私のことを心配してくれているらしい。前に彼は、壊れていく私にとどめを刺したい、だなんて訳のわからないことを言っていたけれど、結局こうやって、食べ物を押し付けてくるくらいの不器用な優しさくらいは持ち合わせているらしい。


 ありがたいけれど、それが苦しくて、やっぱり辛かった。祥平のときと一緒で、私はその優しさに報いることができないからだ。だったらまだ、私を思い切り痛めつけるくらいの方が、精神的に楽なのに。


 私はその袋に、手に持っていたおにぎりを入れて、ビニール袋の口を閉めた。ありがとう、と呟くように言ってから、ビニール袋を自分の荷物のそばに置く。


 そのために、足を崩して体勢を変えたときだった。


 脳の恐怖を司る部位に直接働きかけるような、そんな低くて恐ろしい声が聞こえてくる。



「おい。何だよ、それ」



 見ると綾人くんが、私の足を指差して、怪訝そうな顔をしていた。