性、喰らう夢




「待ってたよ」



 放課後、私は生徒会室に足を運んでいた。夏目先輩は、目を細めながら私を中へと招き入れて、生徒会室の扉に内側から鍵をかけた。

 夏目先輩は、この学校の生徒会長だった。そのおかげなのかはわからないが、夏目先輩は自由に生徒会室を使うことができるらしい。下校前に鍵を返せば、中で何をしたって良いんだよ、と以前先輩は私に教えてくれた。



「あれ、またそのスリッパ履いてる」

「……はい」

「またとられたの?」



 首を縦に振ると、先輩は苦笑いを浮かべた。



「それは災難だったね。買ってあげようか?」

「いいんです。どうせまた、なくなるから」



 先輩の言葉を受け流しながら、私は壁際のソファーに座る。それを見かねた夏目先輩が、棚から黒いブランケットを取り出した。



「ふうん。結構な嫌がらせなのに、きみ、いつも平気そうな顔してるよね」

「……そうでしょうか」

「うん。そう見える」



 ほら、と言って、先輩は手に取ったブランケットを私にかけてくれた。私はソファーに横になりながら、与えられたブランケットにくるまって、それをぎゅっと握りしめる。

 夏目先輩は私のそばにしゃがみこんで、私の頭をそっと撫でた。先輩の手があたたかくて気持ちよかった。



「きみにとっては、嫌がらせなんかより、眠ることの方が大事なんだ?」

「そうかも、しれないです」

「良いんじゃない? 眠っている間は、嫌なことなんて考えなくてもいいしね」

「……」



 頭がぼうっとしてきた。先輩のことをぼんやりと見つめると、彼は満足そうに笑ってみせた。