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ひとしきり眠って、夏目先輩に起こされる。
毎度ながら先輩は乱れた私の髪の毛を直してくれるし、ブランケットを片付けて、ぼんやりしている私の顔を覗き込んで来る。そんな細かい所作まで、いつもと同じだった。
この間先輩に襲われかけたのは、嘘だったんじゃないかと思えてくる。それほどまでに、先輩との関係には変化がない。強いていうなら、嫌がらせの激化とともに、先輩に会う頻度が高くなっていることくらいだろうか。
「じゃあね。帰りは気を付けて。悪漢に襲われないように」
「……はい」
生徒会室を施錠した先輩は、鍵を片手に職員室の方に消えていった。私はそれを見届けてから、ひとり、靴を履き替えて学校の外に出た。
毎日、こんなことを繰り返していくのだろうか、と思うとすこし嫌な気分になった。嫌がらせに耐えて、夏目先輩と祥平のところを巡って、たまに綾人くんに会う日常に、意味はあるのだろうか。
いつになったら、私は幸せになれるのだろうか、と哲学的なことを考えてみるも、答えは見つからなかった。これ以上、私は何をどうすれば良いのだろうか。
もうどうしようもなく疲れてしまった。身体の節々が痛くてたまらないし、なんだかふらふらとしてきた。
そんなふうに色々なことを考えながら歩いていると、後ろから、
「おい」
と聞き慣れた声が降ってきた。
どうやら誰かが、私に声をかけてきたらしい。その声に反応して後ろを振り返ると、そこには想像通りの人が立っていた。
悪漢に襲われないように、と夏目先輩は忠告してくれたが、その悪漢というのは彼のことなのかも知れないと思うと、何だか可笑しかった。
「綾人くん、偶然だね」


