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「暴力なんて、感心しないな」
生徒会室のデスクに備え付けられているキャスターのついた古臭い椅子にもたれながら、夏目先輩は手足を組んで、ソファーに座る私を見下ろしている。
大丈夫? 怪我はちゃんと冷やしたの? と尋ねられたので、私は首を横に振った。
「大丈夫です、多分」
「そういうときはね、ちゃんと甘えた方が可愛げがあると思うよ」
ね、と先輩は私に笑いかける。私はその言葉を無視した。
「別に良いんですけど、最近、さすがに気が滅入ってきたんです」
「そりゃあ、そうだろうね。だってきみ、ここに来るの今週でもう3回目だよ?」
「それは、すみません」
「まあ、僕としては複雑な気分だよ。ここに眠りに来てくれるのは嬉しいけれど、傷付いているきみの姿は見るに堪えないな」
夏目先輩はそんなことを軽い口調で言った。別に私を助けてくれるわけでもなかろうに、彼は何を言っているのだろうと思った。
だからと言って、夏目先輩に不満があるわけではない。夏目先輩がそういった類の面倒事が嫌いだということは重々承知しているし、それに私だって、できることなら誰にも頼らずに問題を解決したいと思っている。
「……そうですか」
「うん。でもさすがに可哀想になってきたよ。何か僕にできることって、ある?」
「先輩、そういうの面倒だって、前に言ってたじゃないですか」
「きみ、嫌なことばかり覚えてるね」
夏目先輩はくすくすと笑った。先輩は優しいようで、本当は全然優しくないのかもしれない。でも別に、そんなことは些細な問題だ。先輩がここで私を眠らせてくれるなら、それ以外はどうだっていいし、今更先輩に何かを求めるつもりはない。


