性、喰らう夢




「何か言いなって、あんた」



 ひとりの女の子が、ビニール傘の先で私の頭を何度も突いてきた。私は顔と頭を両腕で必死に押さえた。

 昔、母から暴力を受けていたときのことが思い出される。自分の状況が、幼い頃に受けた暴力の日々と重なって、私は恐怖に支配された。

 頭を腕で守っている分、腕を何度も叩かれた。きっと、痣だらけになっているだろう。そんな、私を徹底的に痛めつけようとする攻撃は、標的となる身体部位を変えて何度も行われた。3対1だったので、抵抗は意味をなさなかった。


 もうひとりの非常階段に座っている女の子は、こちらを助けるでも何でもなく、目の前で繰り広げられている惨状に全く興味がなさそうな顔をしている。彼女だけは、こちらを見ようともしない。



「ごめんなさい……」



 目の前の3人に対してなぜかそんなことを口走る。自分が悪いことをしているつもりはなかったが、圧倒的な力を前にすると、謝って赦しを乞うことしかできないのだ。

 苦しさと痛みで頭がどうにかなりそうだった。ただずっと、思ってもいない謝罪の言葉を口走りながら、頭を抱えてうずくまっていた。



「今更必死に謝っちゃって、どうしたの? 何も反省してないんでしょ?」



 くそビッチ、といって、3人のうちのひとりが、私の脇腹のあたりを箒の柄の部分で思い切り突いて、それをめり込ませた。あまりにも大きい痛みと内臓への圧迫感が気持ち悪くて、思わず声が漏れる。

 どういうことだろう、と疑問に思って、私は目の前の3人に問いかけた。



「どうして、私なんですか」



 消え入りそうな声を放つと、目の前の3人が半笑いになって顔を見合わせた。すると、向こうでスマホを弄っていた女の子が急に立ち上がって、私の方にやってくる。

 猫っ毛の、少し茶色がかった色素の薄い髪の毛をふわりと揺らしながら、彼女は私を見下ろした。



「んーじゃあ、祥平に手出さないでほしいから、てことにしておこうかな」



 ね、ビッチちゃん、と言って彼女は私に笑いかけた。