性、喰らう夢




 眠くはないかな、というと、祥平は私の背中に回していた手を上の方に動かして、私の後頭部にその手をそっと添えた。



「やっぱり、夏目先輩のところじゃないとダメなのか」

「……私、祥平に夏目先輩のこと話したことあったっけ」

「大分昔に聞いた気がする」

「そっか」



 祥平は私の頭を撫でた。いつもよりも鈍い彼の手の動きを感じながらも、私は向こう側の壁を見ていた。



「ちなみにお前が眠れないのって、どうして?」

「……こわいの、嫌な夢を見るのが」



 その言葉を発すると、数秒だけ沈黙が続いた。そして祥平は、もう一度私の背中に手を回して、私をさらに自分の方に引き寄せた。

 ほとんど抱きしめられるような格好になった。彼が寝ぼけているのか何なのかはよくわからなかったが、私は特に抵抗しなかった。

 祥平のゆっくりとした息がすぐそこに聞こえる。私は祥平の胸のあたりに顔を収めた。すこしだけ、息が苦しい。


 祥平は私を抱きしめ直した。私は祥平にそのまま身を預けたが、彼を抱きしめ返す気にはなれなかった。



「一緒に眠ろう。俺、ずっとここにいるよ」



 私は、返事をすることができなかった。

 夏目先輩のことを思い出す。あのひとが発する独特な雰囲気を肌に感じてからじゃないと眠れなくなったのは、いつからだっただろうか。