性、喰らう夢




 来客用の緑色のスリッパを履いて教室に入り、黙って自分の席に着く。誰も私に話しかけようとしないが、特段、いつもと何ら変わりない。

 途中、高身の男子がすれ違いざまに私の足元を見てきたが、彼はすぐにその視線を元に戻した。


 ああ、今日も一日が始まる。けれど、今日はやけに具合が悪い。きっと、ここ数日ろくに眠れていないからだ。



 私は机の下でスマホを取り出して、ある人にメッセージを送った。



<夏目先輩、今日、そっち行ってもいいですか>



 そんな言葉を打ち込んで、推敲もせずに送信すると、すぐにその相手、夏目先輩から返信が届いた。



<いいよ。放課後、待ってるね>



 そんな優しさにあふれた文面に既読だけつけて、私はそっとスマホの画面を閉じた。

 スリッパを隠されるとか、私にだけプリントを回されないとか、そんな幼稚な嫌がらせを受けるたびに、私は夏目先輩のところに行きたくなる。

 どうしてなのかはわからなかった。けれど、それがルーティーンと化していたから、そうしているだけだった。


 夏目先輩は、私が嫌がらせを受けていることを知っている。知っているけれど、だからといって私をどうにかしようとしてくれるわけではない。それがかえって、心地よかった。私は先輩に、助けを求めているわけではないのだ。