性、喰らう夢







 私はこの行為を、サボタージュではなく、消極的な休息と呼びたい。

 別に学校に行っても良かったのだが、なんとなく、学校を休んだ方が色々と都合が良いのではないか、と思ったのだ。

 もう少し、ロッカーの中で蠢くあの地獄のような光景が記憶から薄れてから学校に行きたいような気もするし、それに今は傷ついているふりをした方が人間らしいのではないか、といった偏った考えがふと浮かんだから、というのが、今日学校を休んだ大きな理由だった。


 意味もなく、スマホを開いてみる。その画面に通知が浮かぶことは滅多にないのだが、今日に限って、メッセージが数件届いているようだった。


 その中にある、依央、の文字を認識して、私は驚いた。彼と連絡先を交換した記憶がなかったのだ。


 彼から届いたメッセージを開いてみる。



<ごめん、クラスのグループから連絡先追加した>
<今日休んでたけど、大丈夫か>



 そんなメッセージが2件、届いていた。きっと、昨日のことがあって私のことを心配してくれているのだろう。昨日初めて喋ったようなひとに対してここまで気を遣ってくれるだなんて、と素直に感心した。

 この様子だと、昨日あのあとロッカーを片付けてくれたのは、やっぱり依央だったのかもしれない。

 なんとなく彼に対して申し訳ない気持ちになって、私はすぐに文字を打ち込んだ。



<大丈夫です>
<ロッカー、依央が片付けてくれたんだよね。ありがとう>



 それだけを送信して、私は依央とのトーク画面をそっと閉じた。やっぱり学校に行って彼に直接礼を言えば良かったのかも、と思った。

 依央から返信がやってくる気配はない。きっとまだ授業中だからだろう。

 私はシミだらけの天井をぼうっと眺めながら、外から聞こえてくる環境音に耳を傾けた。何とも言えない心地がした。