先輩は、私の放った言葉の真意を掴むのに少しだけ時間がかかっていたようだったが、やがてそれを理解すると、諦めを含んだようなため息をついた。
「そっか、ごめんね。僕がきみに無理やり迫ったとて、きみがここに来てくれなくなるんじゃあ、意味がないか」
先輩は私から手を離した。夏目先輩が思ったよりも呆気なく引いてくれたので、むしろ私の方が困惑してしまう。
「先輩、ごめんなさい。私……」
「良いんだよ。謝らなくて。さっきは悪かった。きみを襲おうとか、そんな野暮なことはもうしないからさ」
先輩はもう一度、私にブランケットをかけ直した。もう一枚足そうか? と先輩に尋ねられたので、これだけで大丈夫です、と返事をした。
「僕にとっては、きみがここに来てくれなくなることの方が重大な問題なんだ。何も考えなくていいよ。ただそこで眠っていてくれれば」
じゃあ、おやすみ、と言って先輩はもう一度、私の額にキスを落とした。いつも通りの先輩を感じると、醒めていたはずの意識が沈んでいくのを感じた。
私は考えるのが嫌になった。今日は色々なことが起きすぎている気がする。さっさと眠ろう。夏目先輩の言っていたことは忘れよう、と思った。
目をつむると、少しずつ何も考えられなくなっていく。私は意識の全てを投げ打った。いつもと何ら変わりない入眠だった。


