性、喰らう夢




 突然のこと過ぎて、私は抵抗することも、目をつむることも出来ずに、ただ視界の端に映る夏目先輩の首筋を眺めていた。

 その場で固まっていると、先輩はすぐに顔を離して、私の瞳の奥を覗き込んだ。そこでやっと、私は自分の置かれている状況を理解して、頭がひどく混乱した。



「夏目先輩、どうして」

「きみって、本当に鈍いよね」



 先輩はそう言いながら、私の頬に手を当てた。適度に水分が含まれた綺麗な先輩の手に包まれると、安心感が生まれてくるのに、先輩の表情がやけに生々しいように感じられて、いよいよ訳がわからなくなってきた。



「自分では気付いていないのかもしれないけれど、きみって、そこそこ可愛いんだよ。それなのに、不遇な境遇に身を置いているものだから、余計に構ってあげたくなるし、離したくなくなってしまう」

「そんなこと、言われても」

「きみはさ、何の恐れも警戒も抱かずに、いつもここにやってくるよね。僕がこの部屋の鍵を閉めたとしても、別にそれが普通であるかのような表情をするし、僕が額にキスをしても、抵抗もしないよね、きみは」



 やめてください、という言葉は声にならなかった。口をぱくぱくと動かして見るものの、上手く声が出ない。夏目先輩はそんな私の様子をみて、くすくすと笑った。