ありがとうございます、と言うと、先輩は別に良いよ、と言いながら私に黒いブランケットをかけた。
いつものように、夏目先輩が私の頭を撫でながら、額にキスを落としてくる。普段ならここで、先輩が私から離れてデスクに向かって行くのだが、今日はなぜか、夏目先輩は私のそばから離れようとしなかった。
どうしたんだろう、と思って、先輩の目をじっと見つめる。夏目先輩は変わらぬ表情を私に向けながら、その唇をゆっくりと動かした。
「あのさ、僕が今からきみの唇にキスをしたら、きみは怒るの?」
一瞬、先輩の発言の意味を理解することができず、え、と間抜けな声を発してしまった。戸惑う私に対して先輩は、別にそのままの意味だよ、と言って私の頭をもう一度撫でた。
私は突然のことに困惑してしまい、何も言い返すことができなかった。
「ねえ、きみはちゃんと意識してたの? 前にも言ったけど、今ここは密室なんだよ。内側から鍵をかけているし、外から開けられる鍵も、今僕が持っているから、誰もここには入ってこられないんだよ」
「それは……知ってましたけど」
うん、そうだよね、と先輩はふわりと笑った。柔らかい表情の裏に何が隠れているのかが全くわからなくて、私は狼狽えた。
「僕はね、そこそこ我慢してきたんだよ。眠り姫は100年間眠り続けてから、王子様のキスで目覚めるけれど、僕はそんなに長い期間きみのことを待っていられないんだよね」
夏目先輩、それってどういうことですか、と聞き返そうとしたとき、夏目先輩はすでに、私の唇に自分の唇を重ねていた。


