「お前が俺に呼び出されて、毎回ここに来ちゃうのって、何でなんだろうな」
「……」
黙りこくる私に向かって、彼は口の端を持ち上げながら、鋭利な言葉を放った。
「それは、お前が死に近いからだよ」
彼の言葉の響きが何だか怖くて、彼の手をぎゅっと握りしめた。彼は私の手を優しく握り返した。
「お前が定期的に夏目くんと祥平のところに行っていたとしても、お前が不健康なのは変わらないよ。それだけの睡眠と食事で生命を維持しようとする方がおかしいだろ、どう考えても」
「……そう、かな」
「お前は十分、死に近い存在だよ。お前は最後の本能で、俺に抱かれに来てるんだ。お前は、死ぬ直前に俺を求めてるんだよ」
そこまで言うと、彼は満足そうに笑った。彼はそのまま顔を近づけてきて、私の肩を噛んだ。私は彼の言葉を否定することができなかった。
難しい議論はよくわからなかった。そこまで自分の行動というものを客観的に顧みようとしたことがなかったからだ。
彼はああ言っていたが、私は死ぬ直前に、本当に綾人くんを求めるのだろうか。永遠の眠りにつくのならその瞬間は夏目先輩と一緒の方が良い気がするし、最期に祥平の作った料理を食べたいような気もする。
実際にその場面に置かれてみないと、死の直前に私が何を求めて、誰と一緒にいるのかなんて、わかりようもない。
私は考えることを放棄した。
綾人くんをもう一度抱きしめる。彼は心なしか嬉しそうな顔をしながら、それから時間をかけてゆっくりとと、嬲るようにして私のことを抱いた。
第1章 本能 end


