彼との情事は、重く、痛く、苦しい。それでも、その中には確かに快楽が混じっているのだから、頭がおかしくなりそうになる。
繋がった状態のまま、綾人くんは何度も私の首を絞めて、私が咳き込むたびに歪んだ笑みを浮かべて見せる。
いろいろなところを強く噛まれる度に、悲鳴に近いような声が漏れる。そして私が声を出す度に、彼はうるさい、といって私の口を思い切り押さえてくる。首を絞められるのとはまた違う苦しさがこみ上げてきて、私は彼に何度も助けを求める。
まるで私の生を弄んでいるような彼との行為が、なぜか好きだった。
どうしてかはわからない。普段感じることのない、生への渇望を味わえるからかもしれないし、単に私の性癖かもしれない。はたまた別の理由が存在するのかもしれなかった。
一瞬、彼の手が離れて、私はあがった息をひとり、整えた。彼は余裕そうな顔をしてこちらを見下ろしている。
「なあ、三大欲求ってあるだろ」
「え……」
「俺はね、性欲は、睡眠欲と食欲とは別種の、崇高なものだと思ってる」
さっきから、綾人くんが難しいことばかりを言う。ぼんやりとした意識の中で彼の姿をとらえながら、どうしてそう思うの、と呟いた。
「人って、眠らないと死ぬだろ。食べなくても死ぬし。でも、性欲は満たさなくても、一個人の生がなくなるわけじゃない」
「それじゃあ、どうして性欲が他のふたつよりも崇高だって言えるの?」
わかってないな、お前は、と鼻で笑いながら、綾人くんは私の頬を撫でた。


