綾人くんは私の着ているシャツのボタンをひとつずつ外して、私の肌を露出させた。首の根元にある噛み跡を見て、痛そうだな、と彼は呟いた。あなたがつけた跡でしょう、とは言えなかった。
「相も変わらず、不健康な身体だよな」
「ごめんなさい……」
「謝って欲しいわけじゃないんだけど」
綾人くんの両目が、私の奥深くを見つめてくる。真っ黒で、光の差さない瞳に吸い込まれそうだった。
「壊れかけのお前にとどめを刺すのは、俺であってほしいと思う」
「……難しいよ、綾人くん」
どういう意味? と問い直しても、彼は答えてくれなかった。その代わり、彼は私の首に手をかけた。
彼が緩く手に力をこめる。呼吸の出入り口が狭くなって、息が苦しくなる。私の様子を見ながら、彼は手の力を強めたり、緩めたりする。
ギリギリを攻めるような彼の行いに翻弄され、私は目に涙を溜めた。悲しいから、ではない。息が苦しいことによる、生理的な涙だった。思わず彼の腕にしがみつくと、彼は目をうっすらと細めた。笑っているみたいだった。
彼は私を痛めつけるのが好きらしい。
泣きながら、助けて、もう止めてっていう私を見て、彼は性的な興奮を覚えている。私の生に対する願望が、彼にとっては性に対する興奮材料となるらしい。なんとも可笑しい話だ。
こんな状況でも、綾人くんは圧倒的な強者で、私は惨めな弱者なのだ。けれど私は、逃げようとは思わない。私かて、性的な興奮を覚えられるのは彼と一緒にいるときだけなのだ。


