性、喰らう夢



 綾人くんは、狂気的なほどに潔癖症だった。


 部屋の中には埃ひとつ落ちていないし、勉強用の机には参考書とノートが綺麗に、1ミリの乱れもなく揃えて並べてある。

 家具の配置も、小物の位置も、全部が全部、あるべき場所にきれいに収めてある。何もかもが予定調和のような配置だった。

 物にすこしでも触ってその位置をずらそうものなら、彼はきっと不機嫌になる。だからこの部屋で過ごす時間は、あまり落ち着くものではない。



 そんな彼が、どうしてこんなに汚い私のことを抱くのか、不思議でならなかった。けれど、そんなことを聞いたら彼の逆鱗に触れそうで、私はそれをまだ聞けずにいる。



「手、洗えよ」



 綾人くんに言われるがままに洗面台にやってきて、私は冷たい水を手に触れさせた。

 彼は私の後ろにぴったりとくっついて、鏡越しに私の顔を覗き込んできた。



「今日、やけに顔色良いな」

「……そうかな」

「何、祥平にでも会ったわけ?」



 綾人くんは後ろから私の腰に手を回してきた。彼の右手が私のみぞおちのあたりをゆっくりとさする。胃を刺激されているような感覚になって、気持ち悪かった。

 私は彼からの問いかけに答えることができなかった。そんな私の様子を見た綾人くんは、苛立った様子をみせた。



「祥平に会ったのかって、聞いてんだけど」

「……会いました」



 そう答えると、綾人くんは後ろから私の服を片手で押さえて、私の首の付け根を思い切り噛んだ。

 途端、鋭い痛みが走る。思わず顔をしかめて、声にもならない悲鳴をあげながら、彼から逃れるように洗面台に向かって前のめりになる。

 彼はそんな私を逃がすまいと、もう片方の腕で私をきつく抱き締めた。