性、喰らう夢




 それを見た瞬間に、どくん、と心臓が高鳴る音がした。

 綾人くんに無理やり眠らされてからというものの、私のスマホが見当たらなくなっていたのだ。だから私は、外の人たちと連絡を取ることが不可能だった。

 けれどそこにある綾人くんの端末を使えば、この部屋の外にいる人と連絡がつくかもしれない。そんな想像が私の頭の中を駆け巡った。

 けれど、誰に、何を連絡をすればいいのだろうか。


 夏目先輩、はダメだ。きっと助けを求めたあとに見返りを要求してきて、さらに面倒なことになる気がする。

 祥平はどうだろうか。けれど、さっきあんな夢を見た後で、祥平に助けを求める気にはならなかった。祥平だって、きっと夏目先輩と同じだ。どうして彼らは、私との関係性に名前をつけたがるのだろうか。


 そうすると、まともに私に救いの手を差し伸べてくれるのは、あのひとしかいない気がする。唯一、私への嫌がらせに真っ向から向き合ってくれた彼の顔が、はっきりと浮かんでくる。


 意を決して、そのタブレット端末に触れようとしたときだった。

 玄関のほうから、がちゃ、と鍵を開ける音が聞こえた。綾人くんが予備校から帰ってきたらしい。


 私はあわてて、彼の机のほうから離れて、玄関のほうに彼を出迎えに行った。私がタブレットに触れようとしていたことは、なんとしてでも彼に隠し通さなければならない。



「おかえりなさい、綾人くん」

「ああ、ただいま」



 手は拘束されたままだったが、自由な足を使って彼のところに行くと、彼は目を細めながら心なしか嬉しそうな顔をしていた。

 一方で私は、目の前にいる彼のことではなく、ずっとこの部屋の外のことを考えていた。


 私は、綾人くんのことを愛しているわけではない。だからこそ、私はずっとここにいるわけにはいかないし、いつかはこの部屋から逃げ出さなければならないと、そんな気持ちを心のどこかで抱き抱えていた。