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意識が曖昧になっていた。
「なあ、お前が夏目先輩と生徒会室に入っていくのを見たんだけど、あれってどういうことなの」
いつの記憶だったかはわからない。けれど確かに、祥平にそう言われたような気がする。私はあの時、何て言ったんだっけ。
「祥平には、関係ないよ」
ああ、そうだった。私はそう言ったんだ。そして祥平は、またいつものように色々な感情が混ざったような、複雑な表情をしてみせるのだ。
だから仕方なく、私は祥平に夏目先輩とのことを話したんだ。私が眠れないから、嫌な夢を見るのが怖いから、夏目先輩のところに眠りに行っている、と。やましいことは何もないと。
そしてそのあと、何か嫌なことがあった気がする。思い出したくないような何か。意味が分からなくて、記憶の奥底に押し込めたような何かだ。
「お前さ、どうして他の男と2人きりになるんだよ。俺らって、何なの。俺はただ、お前に飯食わせるだけの存在なのかよ」
「え、どうしたの、急に」
そうだ。思い出した。
この会話のあと、1週間ほど、祥平が私に会ってくれなくなったんだ。お金がなくて何も食べられない私はあの時、水道水だけを飲んで生活していた気がする。
あの時の苦しみは、母親に殴られているときとはまた違うものだった。暴力を受ける苦しみが急性的なものだとしたら、食事を摂れない苦しみは慢性的なものだ。真綿で首を締めるような、という表現が相応しいだろう。
そしてとうとう、学校に行く体力すらなくなって家でひとり倒れていたとき、祥平が泣きながら謝りに来たんだ。別に祥平が何か悪いことをしたというわけではないのだが、私はその謝罪をなんとなく受け入れた。
そんな、ほとんど忘れかけていたような記憶が、夢の中で蘇った。


