私は彼のその顔を見て、何も言えなくなった。
そして彼は、そんな私の様子を認識するや否や、私の口の中に無理やり2錠の錠剤を指で押し込んだ。
じわり、と苦い薬の味がする。
それに続いて彼はコップに注がれた水を口に含んで、私に口づけを落とした。唇の狭い隙間から、生あたたかい液体が注がれる。
飲まないわけにはいかなかった。眠ることは怖いけれど、今彼に逆らったら何をされるかわからない。いつか本当に、私の首を絞める手を緩めないまま、彼は私を殺めてしまうかもしれないのだ。
死ぬことはそこまで怖くない。けれど、私を殺した綾人くんのその後のこと、つまり医者になる道を閉ざされる綾人くんのことを考えると、胸が苦しくなる。私は、彼に殺されるわけにはいかなかった。
錠剤をゆっくりと飲み込んで、彼に口を開けて見せると、彼は満足そうな顔をして私の頭を撫でた。そして、少しずつ自分の意識が朦朧としてくるのを感じると、眠ることに対する恐怖心が芽生えてくる。
「怖いの、どうしよう」
「大丈夫だから。俺、予備校行ってくるから、大人しく寝てろよ」
「待って、行かないで」
必死に訴える私をよそに、彼は身支度を滞りなく進めていく。雑な格好に身を包んで、黒いリュックを背負った彼が、私に近づいてくる。
「夕方には戻るから、ゆっくり休めよ」
薬が効くのは助かるな、と彼は半笑いで言った。拘束されている状態では彼に縋りつくことも出来ない。
私は少しずつ、意識を薄れさせていった。


