正直、意味がわからなかった。
私は綾人くんに好かれるような要素を持ち合わせていないからだ。綺麗なわけでもないし、彼の望むような振る舞いをしているわけでもない。けれど彼は、そんな醜い私にわざわざあんなことを言うのだ。
彼はいつの間にか椅子にもう一度腰かけていて、くるり、と身体を机の方に向かわせた。どうやら、今度こそ勉強をするつもりらしい。
彼の邪魔をしてはいけないという、配慮のような念もあったのだが、このままの状態で放置されることが何よりの苦痛だった。綾人くんの何もない部屋で、ただ沈黙を肌で感じてじっとしていなければならないという事実だけで、気が狂いそうだったからだ。
「綾人くんは、お医者さんになるの?」
口をついて出たのはそんな言葉だった。彼はまたもひとつ、ため息を落としてから、もう一度椅子を回転させて、ベッドに横たわる私を見下ろした。
「……そうだよ。だからこうやって勉強してるんだろうが」
「それは、お父さんとお母さんの影響?」
身の上話があまり好きではない彼に対してそんなことを言ったのは単なる偶然だった。私は自分が発した質問の意味を自分で咀嚼した瞬間に、しまった、と思った。けれど彼は特に不機嫌になることもなく、ペンを机の上に置いて腕を組んだ。
「俺はね、父親の跡を継いで精神科医になるんだ」
でもさ、と彼が続ける。私はじっと、彼の言葉に耳を傾けた。
「精神科医になるための勉強で自律神経を乱してしまうのなんて、本末転倒だよな。つくづく自分が嫌になる」
お前にはわからないのかも知れないけれど、と言って視線を泳がせる彼の表情が、心なしか冷たい。


