顔のアウトラインに手が触れたかと思ったら、上から唇を奪われていた。
朝も早い時間から噛み付かれるような口付けに、あっという間に全身から力が抜けていく。
すぐに立っていられなくなった。
「おっと。……大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
「ごめん、悪かった」
「卵、割れたらどうするの」
「え? ……はは。ごめんね?」
「次は気を付けてください」
だからって、わたしだって嫌ではないのだ。強くは言えない。それもヒナタくんはわかってるから、もっとタチが悪いけど。
(……その時は朝、ご飯がいいって言われたから早々にメニュー書き換えたんだよね)
そして、ご飯を炊けた音と同時に行動開始。でも、時たまちらりと後方を見てみると、彼は机に肘をつきながらもいい子で待っていた。しかもすごく幸せそうに頬を緩ませて。
それが何故か無性に恥ずかしかったので、頭の中でクッキングのテーマ曲を高速で流して無心で進めることにした。
(ま、だからってわたしみたいなこと、さすがに今の夢ヒナタくんはしていないだろうけど)
お粥を作ってくれている彼の背中を見つめながら、懐かしい記憶を思い出した。
……あの時ヒナタくんは、何を考えていたんだろう。
――――――…………
――――……
「……ん、……あれ?」
一瞬目を閉じている間に、再び場所がわたしの部屋へと移った。これぞ瞬間移動というヤツか。
『あ、起きた』
「うん、起きた」
ベッドのそばに座っていたヒナタくん。片手にはスマホと、もう片方には温度計。
『具合はどう? 取り敢えず熱測ってスポーツドリンク飲んで。食べられそうなら何か食べて薬飲むよ』
テキパキと指示するヒナタくんから温度計を渡され、取り敢えず熱を測る。……測り終わる間、何故か妙な沈黙が流れていた。
「……七度二分」
『微熱か、ちょっと怠いね。何か食べられ――ぎゅるぎゅるぎゅる……そうだね。何がいい?』
「……お粥。たまごの」
『はは。了解』
ふっと可笑しそうに笑った彼は、おでこのひんやりシートを張り替えながらも堪えるように肩を震わせていた。
取り敢えず、わたしより先に返事をするなと、お腹の虫によくよく言っておいた。



