すべての花へそして君へ③

 ――――――…………
 ――――……

 ――――――…………
 ――――……


 目を覚ました時、妙に視界がはっきりとしていた。
 でも、それとは反対に意識は半分ぼんやりとしていて。ああ、ここもまた夢の世界なんだと、何となくそう思う。

 ゆっくりとベッドから起き上がる。家の中が妙に静かだ。普段とは明らかに何かが違う。
 そう思い辺りを確認してみた。取り敢えず、部屋は何も変わってはいないようだ。なんだか間違い探しみたいだと思うと、心が少し浮かれてしまうのは否めない。


「……だーれもいない」


 でも、この世界には誰もいなかった。
 朝、必ず家の前の道を走っていく子どもたちも。隣の農家のおじいさんおばあさんも。アイくんもミズカさんもヒイノさんも。

 世界はただ、静かだった。わたしは、……ひとりぼっちだった。


 それでも不思議と寂しくなかったのは、今日は絶対にいい夢が見られると思っているからだろう。
 わたしのこういう勘は、絶対に当たるからな!


『……あ、おはよ。もう少しかかるから、ちょっと待っててね』

(だからって、ここまで来ると自分の願望が恐ろしい……)


 決めポーズをバッチリ決めながら台所に入ると、そこにはまさかのヒナタくんがいたからだ。しかも何故か料理をしているときた。
 でも、これはきっと何かのお告げだ。もうすぐヒナタくんに会えるってことだろう。たとえ今は夢でも、素直にこの状況を喜ぶことにした。


「何作ってるの?」

『秘密』

「見てわかるよ。お粥でしょ?」

『だったら訊かないでよ』


 つんと拗ねてしまったヒナタくんは、どうやらスマホで作り方を検索しながら料理していたらしい。普段のヒナタくんなら、お粥くらい作れるだろう。なんだかんだ料理上手だから。
 そこは少し残念だなと、そう思いながら、引き出しからチェック柄のエプロンを取り出す。


「はいヒナタくん。エプロンどうぞ」

『……はあ。わかった、つけるから大人しくしててね』


 大人しくエプロンを着ける姿を見ていると、初めて一緒に料理をした時のことを思い出す。あの時は、二人でお鍋をつついたっけ。


『……あのさ、ちょっと訊きたいんだけど』

「ん? あ、ドライイーストなら冷凍室に入ってるよ」


 ボケにツッコミが返ってこなくて少ししょんぼりしていると、ヒナタくんは小さく呟いた。


『あの時の卵粥の作り方、教えてよ。隠し味に何入れたの』

「え? ……あはっ。お味噌と生姜!」