『お願いします、ミズカさん』
こうして改めて稽古をつけて欲しいと頼んでくるということは、ひなたなりの覚悟があるということだ。
『……言っとくけど、一生君はあおいを越えられないぞ』
だからオレは、その覚悟をきちんと受け止めた上で、それを先にへし折っておかなければならない。つらい役目だが、それが強い弟子を持ってしまったオレの宿命でもあるからだ。
目を丸くしたひなたに、オレは続けて念を押した。
『あいつはマジで敵無しだから。無理しなくてよくなったとか、制限かけなかったらマジで鉄砲玉さえ取れそうな勢いで怖いから』
とか。
『君があいつを守りたいのは昔っからよくわかっている。けどな、人間誰しも叶わぬ夢や希望があるもんだ。あいつよりも強くなりたいなんて目標は捨てた方がいい。いや、脳内から抹消しろ。オレだって無理だ!』
……とか。
『それなりにもう強くなったんだ。オレが教えられることはもうないだろう。もう一度言うが、絶対、あおいは越えられないぞ。勝とうとしても無理だから。命がいくつあっても足りないから!』
とか。
師匠のオレが、一番よく知っているからな。それはそれは熱弁してやったさ。
「……ねえミズカさん、ちょっとふざけてるでしょ」
「ふざけてねえよ。ありのままを言ったまでだ」
でも、結構本気な話をしていたというのに、目の前のひなたは何故か思い切り噴き出して笑いやがったんだ。当然、今度目を丸くさせるのはこっちの方だ。
『す、すみません。いや、まあ確かに命いくつあっても足りないなって、思って……ぶはっ』
『……強く、なりたいんじゃないのか』
『強くはなりたいですよ。勿論、あいつを守れるくらい』
ツボに嵌まったひなたは、暫くヒーヒー笑いながら、目元に涙を浮かべていた。
そして少し落ち着いてから、こう言った。
『でもねミズカさん、あいつのことだから、守られるだけって絶対嫌なんですよ。だってそうでしょ? ミズカさんは誰かを守れるくらいあいつを強くした。あいつも、今までたくさんの人を守ってきた』
――そんな奴が、すんなり他人に守らせてくれると思います? しかも、自分よりも遙かに弱い奴に。……絶対、有り得ないでしょう?
そう言い切った彼を見て、オレは心から思ったんだ。
ああやっぱり彼は、あおいのことをよくわかってるんだなって。そして、彼のことを信用して、あの時話してよかったなって。
「……あおい? ひなたはな、こう言ってたんだ」



