「……んで、その日もあいの圧勝。ひなたも悪くはないんだがこう……腰の位置が高かったり腕の引きが甘かったり、多分お前のこと考えて余所見したりってのが、主な敗因なんだよな。そこを直さない限り……」
「ねえミズカさん」
「ん? どうした、もう眠いか」
だから、わたしがずっと前から知っていることを、ヒナタくんやアイくんは知らない。
「やっぱり、教えてくれない……?」
「何を」
「男と男の約束」
「…………」
わたしには勝てないと言われたとき、彼は一体何と答えたのか。
それがわかれば……きっと、わかるはずだから。
「そうだな。教えてもいいかもしれないな」
「…………」
「……どうした。目丸くして」
「き、訊いてはみたものの、やっぱりダメって言われると思ってたから……」
お前は何でも知っていないと気が済まない云々言ってたし。そもそも、男の約束を簡単に破っていいのだろうか。
まあわたしも、自分の未来云々の話に関しては、ミズカさんを始め皆さんにズカズカ言った口だし。人のことは棚に上げられないけれど。
「それを知ったら、今よりはちゃんと笑えるんだろ」
「それ以上に風邪なんか吹っ飛んじゃうかも」
「そりゃ言わねえわけにはいかんわな」
「……ごめんなさい」
「謝るこたねえよ。結局、いろいろ拗らしてんのは当人なんだから。勿論お前もだ」
「うん。すっごい自覚してる」
「ならいい」
「お手柔らかにしてね」
すっと目を細めた彼は、大きな手でまた、わたしの頭を撫でてくれた。
「その話をしたのは、稽古を頼まれた時だったな――――……」



