すべての花へそして君へ③


「昔から、あいつの未来にはずっとお前がいた。教えてたのが無駄にならなくて安心した」

「……あの、ヒナタくんはなんて……」

「あ? お前には勝てないって言ったヤツ?」

「……う、うん」

「はははっ。なんて言ったと思う? オレは正直、マジであいつお前しか見てなかったんだなって思ったけどな」

「な、なんて言ってたの……?」

「そこは言わない。男と男の約束だからな」

「だったらわたし男になる」

「それやったらあいつ絶対泣くぞ」

「だったらやめる。……でも知りたい」

「……お前は今も、何でもかんでも知ってないと気が済まないんだな」

「えっ」


 彼の声は、少しわたしを責めているようだった。


「別に悪いとは言わない。けど男にはプライドっていうもんがあるんだ。 そういうとこちゃんとわかってやれ。彼女なら、時には知らない振りして、ドシッと構えて待っててやれよ」

「……待つの? 何も知らないまま?」

「不安か」

「うん、怖い。待ってるのはもう……怖い」

「違うだろうあおい。待っててももう怖くない」

「え……?」


 そう言って頭に乗っかってきた大きなごつごつの手は、とっても温かくて、昔っから変わってない大好きな手だった。


 ――――――…………
 ――――……


 内緒で稽古していることは、ミズカさんとわたしの約束事だ。


『今までは誰かに名前を呼んでもらうしかできなかったから、めちゃくちゃ強いお前でも待つことしかできなかったよな。でも、もうそれはなくなった。なのになんでまだ怖いんだよ。もう怖がる必要なんかないだろ?』

『ま、まだちょっと怖いよ……?』

『だったらリハビリだな。強くなれ、あおい。もう何も怖いことはない。怖がるな。男と女は違う生き物だから、全部理解とかしようと思わなくていいんだ。ただ、ゆっくりでいいからわかってやってくれ』


 その後。


『まあそういうことだから、ひなたが電車の中で寝てても、『なんで眠いの?』なんてこと訊くんじゃねえぞ? 心ん中で『お前のために決まってんだろ』って言ってるだろうからな! はははあー!!』


 と、言い逃げしたミズカさんは、玄関からさっさと出て行った。
 取り敢えず、今まで何度か訊いてしまったのはわたしだけの秘密だ。