「昔から、あいつの未来にはずっとお前がいた。教えてたのが無駄にならなくて安心した」
「……あの、ヒナタくんはなんて……」
「あ? お前には勝てないって言ったヤツ?」
「……う、うん」
「はははっ。なんて言ったと思う? オレは正直、マジであいつお前しか見てなかったんだなって思ったけどな」
「な、なんて言ってたの……?」
「そこは言わない。男と男の約束だからな」
「だったらわたし男になる」
「それやったらあいつ絶対泣くぞ」
「だったらやめる。……でも知りたい」
「……お前は今も、何でもかんでも知ってないと気が済まないんだな」
「えっ」
彼の声は、少しわたしを責めているようだった。
「別に悪いとは言わない。けど男にはプライドっていうもんがあるんだ。 そういうとこちゃんとわかってやれ。彼女なら、時には知らない振りして、ドシッと構えて待っててやれよ」
「……待つの? 何も知らないまま?」
「不安か」
「うん、怖い。待ってるのはもう……怖い」
「違うだろうあおい。待っててももう怖くない」
「え……?」
そう言って頭に乗っかってきた大きなごつごつの手は、とっても温かくて、昔っから変わってない大好きな手だった。
――――――…………
――――……
内緒で稽古していることは、ミズカさんとわたしの約束事だ。
『今までは誰かに名前を呼んでもらうしかできなかったから、めちゃくちゃ強いお前でも待つことしかできなかったよな。でも、もうそれはなくなった。なのになんでまだ怖いんだよ。もう怖がる必要なんかないだろ?』
『ま、まだちょっと怖いよ……?』
『だったらリハビリだな。強くなれ、あおい。もう何も怖いことはない。怖がるな。男と女は違う生き物だから、全部理解とかしようと思わなくていいんだ。ただ、ゆっくりでいいからわかってやってくれ』
その後。
『まあそういうことだから、ひなたが電車の中で寝てても、『なんで眠いの?』なんてこと訊くんじゃねえぞ? 心ん中で『お前のために決まってんだろ』って言ってるだろうからな! はははあー!!』
と、言い逃げしたミズカさんは、玄関からさっさと出て行った。
取り敢えず、今まで何度か訊いてしまったのはわたしだけの秘密だ。



