すべての花へそして君へ③


 その時ちょうど、玄関の方からわたしを呼ぶ声が聞こえた。


「わたしはもう一眠りするわね。あおいちゃん、もし大変だったらお弁当と朝ご飯、今日は交代にする?」

「……ううん。大丈夫。作りたい」

「そう。それじゃあ、おやすみ。それから、……いってらっしゃい」

「……はいっ」


 小さくヒイノさんに手を振って、小走りで玄関へと向かう。
 ミズカさんは、ちゃんとわたしのことを待っていてくれた。


「みずかさん……」

「うわっ! え。何? 今の一瞬で何があったんだよ」

「わたし知らなかった。そこまでひなたくん、教えてくれなっ……」

「……ひのちゃんから聞いたんだな」


 黙っていられたことが寂しくて、俯いていたわたしの顔を、彼はじっと覗き込んできた。ミズカさんの顔は、ムカつくくらい、爽やかだった。


「やっと隠さなくてよくなったな。まあオレが墓穴を掘っただけだが」

「…………」

「……まあ座れ。今日は確実に二人乗せて腕立てだ……」

「はい……」


 玄関の段差に二人して座り込む。
 まだ外は真っ暗だ。夏になろうというのに、やっぱり夜はまだ涼しい。


「どこまで聞いた」

「内緒にしてて欲しいってことと、ずっと前から、やってるってこと」

「ずっと前……ああ、ひなたはな。……なんでオレが、もうお前に強くなる必要はないって言ったか、わかったか?」

「守られてろって、言うの……」

「違う。守らせてやれって言ってるんだ。はじめて会った子どもの時から、あいつは、お前だけを守るために強くなろうとしてるんだから」

「でも」

「お前はお前のやり方で守ってやってくれ。……方法は、人それぞれだろう?」

「…………」


 だから、何となくわかってしまった。
 近付かない代わりに、彼がどうやってわたしのことを守ってきたか、見守ってきたか。ミズカさんの言葉で、彼は彼なりの行動をわたしに示していたんだろう。


「でもまあ、ハッキリ言ってあるけどな。お前があおいを越えることは一生ないって」

「……へ」

「だから言っただろ? お前本当にマジで強いし怖いし、望月の血怖えなって思うけど……いや、オレの才能が怖いの間違いか」

「そ、それ、言ったの? ヒナタくんに?」

「ああ。それを言ったのはお前助け終わってこんなことし始める時だ。……あ、勿論あいにも言ってるぞ」

「そういうことじゃなくってさ……」

「でも、勘違いするなよ。あいつらは別にオレの弟子でも何でもないからな。オレは、オレを越えない限り弟子とは認めない。こんな強い弟子を持てて、オレは幸せ者だあ~」

(絶対酔ってるよこの人……)


 何故か一人、目を爛々と輝かせて楽しそうなんですけど。