その時ちょうど、玄関の方からわたしを呼ぶ声が聞こえた。
「わたしはもう一眠りするわね。あおいちゃん、もし大変だったらお弁当と朝ご飯、今日は交代にする?」
「……ううん。大丈夫。作りたい」
「そう。それじゃあ、おやすみ。それから、……いってらっしゃい」
「……はいっ」
小さくヒイノさんに手を振って、小走りで玄関へと向かう。
ミズカさんは、ちゃんとわたしのことを待っていてくれた。
「みずかさん……」
「うわっ! え。何? 今の一瞬で何があったんだよ」
「わたし知らなかった。そこまでひなたくん、教えてくれなっ……」
「……ひのちゃんから聞いたんだな」
黙っていられたことが寂しくて、俯いていたわたしの顔を、彼はじっと覗き込んできた。ミズカさんの顔は、ムカつくくらい、爽やかだった。
「やっと隠さなくてよくなったな。まあオレが墓穴を掘っただけだが」
「…………」
「……まあ座れ。今日は確実に二人乗せて腕立てだ……」
「はい……」
玄関の段差に二人して座り込む。
まだ外は真っ暗だ。夏になろうというのに、やっぱり夜はまだ涼しい。
「どこまで聞いた」
「内緒にしてて欲しいってことと、ずっと前から、やってるってこと」
「ずっと前……ああ、ひなたはな。……なんでオレが、もうお前に強くなる必要はないって言ったか、わかったか?」
「守られてろって、言うの……」
「違う。守らせてやれって言ってるんだ。はじめて会った子どもの時から、あいつは、お前だけを守るために強くなろうとしてるんだから」
「でも」
「お前はお前のやり方で守ってやってくれ。……方法は、人それぞれだろう?」
「…………」
だから、何となくわかってしまった。
近付かない代わりに、彼がどうやってわたしのことを守ってきたか、見守ってきたか。ミズカさんの言葉で、彼は彼なりの行動をわたしに示していたんだろう。
「でもまあ、ハッキリ言ってあるけどな。お前があおいを越えることは一生ないって」
「……へ」
「だから言っただろ? お前本当にマジで強いし怖いし、望月の血怖えなって思うけど……いや、オレの才能が怖いの間違いか」
「そ、それ、言ったの? ヒナタくんに?」
「ああ。それを言ったのはお前助け終わってこんなことし始める時だ。……あ、勿論あいにも言ってるぞ」
「そういうことじゃなくってさ……」
「でも、勘違いするなよ。あいつらは別にオレの弟子でも何でもないからな。オレは、オレを越えない限り弟子とは認めない。こんな強い弟子を持てて、オレは幸せ者だあ~」
(絶対酔ってるよこの人……)
何故か一人、目を爛々と輝かせて楽しそうなんですけど。



