「だってわたし、変人変態の匂いフェチだからさー! はっはっはー!」
あれ? と思ったときにはもう、彼女は窓枠に仁王立ち。そして一瞬の迷いもなく「あーああ~っ!」と、楽しそうな叫び声を上げながら飛び降りていった。どうやら震えていたのは、うずうずしていただけらしい。
「ちょ、おいこら待て! ばか!!」
普通なら命を心配するところだけど、「バイバーイ!」と夜の校内を駆けていく彼女に言いようのない苛立ちを覚えるあたり、自分もなかなかの変人だったんだなと。
しばらく立ち直れないくらいには、ショックを受けた。
――――――…………
――――……
『……ふっ、……』
「笑いたけりゃ盛大に笑えば」
『ははっ。いや、ほんと。それは強烈以外何とも言えない記憶』
「シリアスな話のはずなのに、思い出し笑いするってどういうことだと思う?」
『それはもう、あおいさんの成せる業としか言いようがないかと』
「もう今はあいつの話はいいよ。……それで」
『ああ、シズルさんの話だよね。聞いてるよ。シントさんのところにも行ったんじゃないかな』
「何か言ってた? 仕事の話とか」
『うん、まあ粗方。『大事な娘さんの命は俺が預かっているようなものなので』って。頑張りますって言ってたよ』
「……力量は」
『ミズカさんと互角。でも長期戦になったらあちらの方が上かな』
「…………そう」
『……九条くん、今何考えてる?』
不自然な間に、電話の向こう側が気付かないはずがない。
あからさま過ぎた。でも、それに気付かれていながら嘘を吐けるほど、オレも口は上手くないし。
「実はさっき、くそガキに財布掏られそうになって」
『ええ!?』
「腹減ってたみたいだから奢ってやったんだよね」
『……え。あの九条くんが?』
「ついでに、ちょっとした手品教えてあげた」
『……何しにパリまで行ってるの』
『ていうか俺には全然教えてくれないよね』と言う文句はさらりと右から左へ受け流して。
「それでさ、教えながらふと思ったんだよ。なんでわざわざこんなことしてるんだろうって」
『うん。俺もそう思うよ』
「直接的ではないにしても、あいつの役に立てたかななんて」
『九条くん……』
「何やってもさ、あいつに繋がるんだよ。……あいつのこと、考えるんだよ」
『……そっか』



