すべての花へそして君へ③

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「……さて。そろそろ寝ますかね」


 そしてそれは、電気を消した時に起こった。

 ベッドに入って暫くすると、廊下がギシ……と、音を立てたのだ。寝ているみんなを起こしてしまわないよう、慎重な歩調で。そのあと、音はトントンと軽快に階段を下りていく。


(……アイくん?)


 二階で寝ているのはわたしとアイくんだけだ。だから、足音の主もきっと彼だろうということは、容易に予想がつくが……。


(……まさか泥棒じゃないよね)


 ちょっと不安になった。
 まさか、二階の窓から侵入? いや、わたしならできないことはない。シズルさんもだ。


(でももし急用があったとしても、入ってくるならわたしの部屋の窓だろうし……)


 さすがの彼でも、こんな時間に他人に迷惑をかけるようなことはしないだろう。

 ぶつぶつ零しながら少し胸騒ぎがしたわたしは、用心して取り敢えず身近にあった折り畳み傘を手に取り、ゆっくりと部屋を出てみることにした。


(アイくんの部屋は……あ、ちょっと開いてる)


 やっぱりアイくんだったか。心配して損した。
 もしかしたら喉でも渇いたのかも知れない。そう思って、護身用特大ハリセンを直そうとした時だった。


「ごめん! 遅くなった!」

「いつまで待たせるの」


 それらは、聞き間違えかと思うほどの、本当に微かな声。


「一時間も遅刻とか有り得ないんだけど」

「ごめん。あおいさんの部屋、まだ電気点いてて出てこられなかったんだって」

「ったく、夜更かしすんなっつったのに」

「……ねえ九条くん」

「何」

「夜更かしの原因、まさか君じゃないよね」

「は? 何の話」

「だ、だから、あの寝付きのいいあおいさんが、こんな時間まで寝られなかったのは」

「何言ってんの。意味わかんないんだけど。あいつが言ってたでしょ。目一杯お腹さすってたよー便所で」

「……! やっぱりあおいさんの部屋にいたんだ!」


 あーあ、バレちゃった。
 胸騒ぎの原因はこれか。というか、二人してこんな夜遅くに何を……?


「それじゃ行こっか。負けた方は勝った方乗せて腕立てだからね」

「よいドン」

「え!? ちょっと九条くん! フライングはズルいって!」


 それに……なんで二人とも、道着なんか着てるの?
 ……何だったのかな今のは。夢? 夢……かな。多分。


「……いひゃい……」


 どうやら自分のほっぺは、正常に作動しているようだ。
 一応アイくんの部屋も覗いてみたけど、やはり彼の姿はどこにもない。見間違ってたわけではなさそうだ。あとは……。