すべての花へそして君へ③


 そう言って、階段を下りていった純粋なアイくんに良心が痛む一方で、今すぐ本当のことを打ち明けて、ちょっと助けてもらっちゃったりなんかしようかなー……なんてことを、思ってしまった。


「ふ~ん。オレ、腹痛かったんだ」

「ご、ごめんって。これでも頑張って隠した方で……」

「あんまり動揺してなかったね。正直そっちに驚いた」

「そりゃ、いろいろ必死でしたから」


 電気は落としておいたから、アイくんも部屋の奥まではよく見えなかったと思う。でも、それはどうやらわたしも同じだったみたいで、気付いたときには扉と彼に挟まれていた。


「……あ。出ます? 実はそろそろ寝ようかと」

「あおいは足りたの」

「あ、明日も朝早いもんね」

「オレは、すごい中途半端なんだけど」

「……実は明日小テストがあって、今からその復習を……」

「あと少し」

「……あと少しって?」

「オレが満足するまで」

「もうっ」


 そう言った彼が、「ご馳走様」と、わたしを解放してくれた頃にはもう、優に日付は変わっていたのだった。


(……寝れん!!)


 あんなことされた後に、『はい! じゃあおやすみ~』って、すぐ寝られる人。いたら今すぐその方法を教えてください。
 ベッドに潜ること、一時間。これ今絶対寝たら朝起きられないパターンのやつ。


(明日はお弁当と、みんなの朝ご飯も作っておきたいから、4時には起きておきたいんだけど……)


 まあ、眠たくなったら寝ればいいか。それまでは……そうだ。日記でも読もうかな。
 ベッドから起き上がり、押し入れの箱の中から一冊、取り出す。自分の過去の話だけれど、信じられないことばかりなので、まあまるで小説か何かを読んでいるような気分だ。


(夏休みはやっぱり熱海だよね! そういえばアキラくんに突き落とされたこともあったっけ……)


 そっと、日記帳を撫でる。この頃は、毎日日記を書くことが苦痛だった。楽しかった日も、日記を書く時は憂鬱で。楽しかったことを書いていても、絶対に読み返すようなことはしなかった。だって、その中身は全部、異常なものばかりだったから。
 嫌だった。異常な自分が。こんな自分がいなければ、みんなみんな、苦しむことなどなかったのにと。……そう思っていた。


(それが無くなっちゃうんだもん。いや読み返したら、うっわ、怖っ、細かっ! って思うけどね)


 それでも、書いていた頃は嫌なことを思いながらでも、読んでいる今は、とっても優しい気持ちで見られてる。ほんと、幸せすぎて怖いよ。