そう言って、階段を下りていった純粋なアイくんに良心が痛む一方で、今すぐ本当のことを打ち明けて、ちょっと助けてもらっちゃったりなんかしようかなー……なんてことを、思ってしまった。
「ふ~ん。オレ、腹痛かったんだ」
「ご、ごめんって。これでも頑張って隠した方で……」
「あんまり動揺してなかったね。正直そっちに驚いた」
「そりゃ、いろいろ必死でしたから」
電気は落としておいたから、アイくんも部屋の奥まではよく見えなかったと思う。でも、それはどうやらわたしも同じだったみたいで、気付いたときには扉と彼に挟まれていた。
「……あ。出ます? 実はそろそろ寝ようかと」
「あおいは足りたの」
「あ、明日も朝早いもんね」
「オレは、すごい中途半端なんだけど」
「……実は明日小テストがあって、今からその復習を……」
「あと少し」
「……あと少しって?」
「オレが満足するまで」
「もうっ」
そう言った彼が、「ご馳走様」と、わたしを解放してくれた頃にはもう、優に日付は変わっていたのだった。
(……寝れん!!)
あんなことされた後に、『はい! じゃあおやすみ~』って、すぐ寝られる人。いたら今すぐその方法を教えてください。
ベッドに潜ること、一時間。これ今絶対寝たら朝起きられないパターンのやつ。
(明日はお弁当と、みんなの朝ご飯も作っておきたいから、4時には起きておきたいんだけど……)
まあ、眠たくなったら寝ればいいか。それまでは……そうだ。日記でも読もうかな。
ベッドから起き上がり、押し入れの箱の中から一冊、取り出す。自分の過去の話だけれど、信じられないことばかりなので、まあまるで小説か何かを読んでいるような気分だ。
(夏休みはやっぱり熱海だよね! そういえばアキラくんに突き落とされたこともあったっけ……)
そっと、日記帳を撫でる。この頃は、毎日日記を書くことが苦痛だった。楽しかった日も、日記を書く時は憂鬱で。楽しかったことを書いていても、絶対に読み返すようなことはしなかった。だって、その中身は全部、異常なものばかりだったから。
嫌だった。異常な自分が。こんな自分がいなければ、みんなみんな、苦しむことなどなかったのにと。……そう思っていた。
(それが無くなっちゃうんだもん。いや読み返したら、うっわ、怖っ、細かっ! って思うけどね)
それでも、書いていた頃は嫌なことを思いながらでも、読んでいる今は、とっても優しい気持ちで見られてる。ほんと、幸せすぎて怖いよ。



