すべての花へそして君へ③

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 堕ちてゆく黒の底で、思う。
 やっぱりわたしは、悪い子なんだ……と。


“風邪を引くと心細くなる”


 彼の、その言葉が耳に残っていたのか。意識が深く深く沈んでいくと、胸の中を冷たい風雪が吹き荒ぶ。すっかり冷え切った心は、まるで自分の心を守っているようだった。


『寂しいかい』


 でも、何故か右手には大きくて温かいぬくもりを感じた。
 徐に瞼を開けてみると、誰かがわたしの手を引いてくれているみたいだった。


「……あ」


 振り返ると、そこにはわたしを育ててくれた家族がいた。


『私が、絶対寂しい思いはさせないからね』

「……うん」


 小さなわたしの手を握ってくれていたのは、新しいお父さんになる人。優しい笑顔を浮かべている――薊さんだった。


「アザミさん」

『ん? どうしたんだい、あおいちゃん』


 わたしはまだ、幼かった。その優しい笑顔の本当の意味を知らなかった。
 笑顔で隠していた彼の寂しい思いを、理解することまでできなかった。


「寂しかったら寂しいんだって、ちゃんと口に出さないとダメですよ」

『……あおい、ちゃん……?』


 だから、……――――もう間違えないんだ。


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 ジジジ――……と、まるでテレビの砂嵐のように小さな機械音を立て、場面が切り替わる。


「こんにちは、アザミさん」

「……あおい、ちゃん……?」

「ご気分はどうですか? まあ、あまりいいところではないと思いますが」

「いいや、それでもこうして君とまた話ができるだけで、私にとってこれ以上幸せなことはないよ」


 面会許可が下りたのは、彼が一番はじめ。その彼と、時間の許す限り話をした。


「わたしは子供でした。あなたの苦しみを、一度も考えたことなんてなくて」

「それは仕方のないことだよ。私は君を、酷く追い詰めてしまったのだから」

「それでも許せないんです。もっと違う行動をしていたら、アザミさんは勿論、エリカさんや乾さんだって、つらい目に遭わせることもなかった」

「……だったら、一つあおいちゃんにお願いをしてみようかな」

「わたしにできることなら」

「……ありがとう」


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