――――――…………
――――……
――――――…………
――――……
堕ちてゆく黒の底で、思う。
やっぱりわたしは、悪い子なんだ……と。
“風邪を引くと心細くなる”
彼の、その言葉が耳に残っていたのか。意識が深く深く沈んでいくと、胸の中を冷たい風雪が吹き荒ぶ。すっかり冷え切った心は、まるで自分の心を守っているようだった。
『寂しいかい』
でも、何故か右手には大きくて温かいぬくもりを感じた。
徐に瞼を開けてみると、誰かがわたしの手を引いてくれているみたいだった。
「……あ」
振り返ると、そこにはわたしを育ててくれた家族がいた。
『私が、絶対寂しい思いはさせないからね』
「……うん」
小さなわたしの手を握ってくれていたのは、新しいお父さんになる人。優しい笑顔を浮かべている――薊さんだった。
「アザミさん」
『ん? どうしたんだい、あおいちゃん』
わたしはまだ、幼かった。その優しい笑顔の本当の意味を知らなかった。
笑顔で隠していた彼の寂しい思いを、理解することまでできなかった。
「寂しかったら寂しいんだって、ちゃんと口に出さないとダメですよ」
『……あおい、ちゃん……?』
だから、……――――もう間違えないんだ。
――――――…………
――――……
――――――…………
――――……
ジジジ――……と、まるでテレビの砂嵐のように小さな機械音を立て、場面が切り替わる。
「こんにちは、アザミさん」
「……あおい、ちゃん……?」
「ご気分はどうですか? まあ、あまりいいところではないと思いますが」
「いいや、それでもこうして君とまた話ができるだけで、私にとってこれ以上幸せなことはないよ」
面会許可が下りたのは、彼が一番はじめ。その彼と、時間の許す限り話をした。
「わたしは子供でした。あなたの苦しみを、一度も考えたことなんてなくて」
「それは仕方のないことだよ。私は君を、酷く追い詰めてしまったのだから」
「それでも許せないんです。もっと違う行動をしていたら、アザミさんは勿論、エリカさんや乾さんだって、つらい目に遭わせることもなかった」
「……だったら、一つあおいちゃんにお願いをしてみようかな」
「わたしにできることなら」
「……ありがとう」
――――――…………
――――……
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堕ちてゆく黒の底で、思う。
やっぱりわたしは、悪い子なんだ……と。
“風邪を引くと心細くなる”
彼の、その言葉が耳に残っていたのか。意識が深く深く沈んでいくと、胸の中を冷たい風雪が吹き荒ぶ。すっかり冷え切った心は、まるで自分の心を守っているようだった。
『寂しいかい』
でも、何故か右手には大きくて温かいぬくもりを感じた。
徐に瞼を開けてみると、誰かがわたしの手を引いてくれているみたいだった。
「……あ」
振り返ると、そこにはわたしを育ててくれた家族がいた。
『私が、絶対寂しい思いはさせないからね』
「……うん」
小さなわたしの手を握ってくれていたのは、新しいお父さんになる人。優しい笑顔を浮かべている――薊さんだった。
「アザミさん」
『ん? どうしたんだい、あおいちゃん』
わたしはまだ、幼かった。その優しい笑顔の本当の意味を知らなかった。
笑顔で隠していた彼の寂しい思いを、理解することまでできなかった。
「寂しかったら寂しいんだって、ちゃんと口に出さないとダメですよ」
『……あおい、ちゃん……?』
だから、……――――もう間違えないんだ。
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ジジジ――……と、まるでテレビの砂嵐のように小さな機械音を立て、場面が切り替わる。
「こんにちは、アザミさん」
「……あおい、ちゃん……?」
「ご気分はどうですか? まあ、あまりいいところではないと思いますが」
「いいや、それでもこうして君とまた話ができるだけで、私にとってこれ以上幸せなことはないよ」
面会許可が下りたのは、彼が一番はじめ。その彼と、時間の許す限り話をした。
「わたしは子供でした。あなたの苦しみを、一度も考えたことなんてなくて」
「それは仕方のないことだよ。私は君を、酷く追い詰めてしまったのだから」
「それでも許せないんです。もっと違う行動をしていたら、アザミさんは勿論、エリカさんや乾さんだって、つらい目に遭わせることもなかった」
「……だったら、一つあおいちゃんにお願いをしてみようかな」
「わたしにできることなら」
「……ありがとう」
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