すべての花へそして君へ③


 そう言って窓に足をかけ始める彼女を、ちょっと待てと慌てて止めた。
 下に誰かいたらどうするの。恥じらいを捨てるにもほどがある。


「あ! ごめんごめん。行ってきますのちゅーし忘れてた」

「そういうことじゃないし、今までしたことないでしょ」

「わたしは、いつかしたいなって思ってるよ?」

「……は」


 茶目っ気たっぷりの笑顔に、一瞬毒気が抜かれそうになるのを何とか堪えた。こちらは山ほど聞きたいことがあるんだ。
 それなのに、なんでそんな嬉しそうな顔で手振ってるかな。いい加減足を下ろしなさい足を。


「あおい、オレはまだ、聞いておきたいことが」

「わたしも一個。大事なこと、ヒナタくんに言っておかなくちゃいけないんだった。君の将来に関わることだと思うから」


 改まった様子になった彼女は、そう言ってからようやく、窓枠から足を下ろした。
 そしてまた、茶目っ気たっぷりに言うんだ。


「一生無理だと思うよ? 堂々と、わたしの隣に並ぼうなんて」


 なんてことを。可愛く笑って。それでも、真面目な声で。ふざけずに。
 けれど突っ込みどころが満載過ぎだ。開いた口が塞がらないどころの話ではない。


「んじゃ!」

「ちょっと待て」


 にもかかわらず、再び彼女は窓に足をかけ始める。
 わかったわかった。窓からの登場に憧れたのはわかったから、お願いだからちょっと待て。


「ん? わかんなかった? だったらわかるまで言うよ。一生かかっても無理。ヒナタくんはわたしみたいにはなれない」

「なんでやってもないのにそんなこと言い切れるの。そういうのあおい、嫌いじゃないの」

「嫌いだよ」

「……だったら、なんでそんなこと言うの」

「自分のことだからわかるんだよ。わたしが、普通の人間じゃないことくらい」

「馬鹿も大概にしないと」


 怒るよと、言いかけた目に飛び込んできたのは、彼女の震えた拳だった。
 必死に耐えるようなそれに、彼女も何かあるのだと、容易に理解できる。


「そんなの、ヒナタくんになって欲しいわけないじゃん。大事にして欲しいに、決まってるじゃないか」


 それをわかってしまったらもう、口を挟むのが躊躇われた。
 こんな彼女を見たことがあるだろうか。あってもきっと、今まで必死になって隠してきたんだろう。そこまで我慢強くないくせに、馬鹿だからなほんと。


「だって、……だって。わたし……」

「……あおい」


「いいから。少し落ち着つこう」そう言いながら震えた手に伸ばした手は、彼女に触れることなく、何故か空を掴んだ。