そう言って窓に足をかけ始める彼女を、ちょっと待てと慌てて止めた。
下に誰かいたらどうするの。恥じらいを捨てるにもほどがある。
「あ! ごめんごめん。行ってきますのちゅーし忘れてた」
「そういうことじゃないし、今までしたことないでしょ」
「わたしは、いつかしたいなって思ってるよ?」
「……は」
茶目っ気たっぷりの笑顔に、一瞬毒気が抜かれそうになるのを何とか堪えた。こちらは山ほど聞きたいことがあるんだ。
それなのに、なんでそんな嬉しそうな顔で手振ってるかな。いい加減足を下ろしなさい足を。
「あおい、オレはまだ、聞いておきたいことが」
「わたしも一個。大事なこと、ヒナタくんに言っておかなくちゃいけないんだった。君の将来に関わることだと思うから」
改まった様子になった彼女は、そう言ってからようやく、窓枠から足を下ろした。
そしてまた、茶目っ気たっぷりに言うんだ。
「一生無理だと思うよ? 堂々と、わたしの隣に並ぼうなんて」
なんてことを。可愛く笑って。それでも、真面目な声で。ふざけずに。
けれど突っ込みどころが満載過ぎだ。開いた口が塞がらないどころの話ではない。
「んじゃ!」
「ちょっと待て」
にもかかわらず、再び彼女は窓に足をかけ始める。
わかったわかった。窓からの登場に憧れたのはわかったから、お願いだからちょっと待て。
「ん? わかんなかった? だったらわかるまで言うよ。一生かかっても無理。ヒナタくんはわたしみたいにはなれない」
「なんでやってもないのにそんなこと言い切れるの。そういうのあおい、嫌いじゃないの」
「嫌いだよ」
「……だったら、なんでそんなこと言うの」
「自分のことだからわかるんだよ。わたしが、普通の人間じゃないことくらい」
「馬鹿も大概にしないと」
怒るよと、言いかけた目に飛び込んできたのは、彼女の震えた拳だった。
必死に耐えるようなそれに、彼女も何かあるのだと、容易に理解できる。
「そんなの、ヒナタくんになって欲しいわけないじゃん。大事にして欲しいに、決まってるじゃないか」
それをわかってしまったらもう、口を挟むのが躊躇われた。
こんな彼女を見たことがあるだろうか。あってもきっと、今まで必死になって隠してきたんだろう。そこまで我慢強くないくせに、馬鹿だからなほんと。
「だって、……だって。わたし……」
「……あおい」
「いいから。少し落ち着つこう」そう言いながら震えた手に伸ばした手は、彼女に触れることなく、何故か空を掴んだ。



