むくれたわたしをあやすように、彼は楽しそうに頭を撫でた。まるで、小さな子どもにでもなった気分だ。
「君は、もっと子どもになっていい」
「……なってます」
「我が儘にだってなっていい、沢山甘えたっていいんだ」
「我が儘だし、十分甘えてると思います」
「どうかな」
「そうなんです」
そう言えば、「じゃあ教えてくれ」と彼はせがんでくる。
わたしが子どもで我が儘で甘えん坊なら、今一番したいことは一体何なのかと。
「……盗聴器とかないですよね。監視カメラとか」
「そんなものはない。……が、愚息がすまない」
「いっ、いえ! こちらこそ……その、いろいろすみません」
わたしは、大きく息を吸った。
「今できることを精一杯やる。それだけです」
「……学生の本分は」
「え? べ、勉学?」
「何の勉学に勤しむか。学問だけが、勉強じゃない」
そうして彼はまた優しい顔で笑った。
沢山悩んで、青春をしなさい――と。
「……トウセイさん、酔ってますね」
「酒を入れないと、口下手の私は素直になれないんだ」
「お水お持ちしましょうか?」
「正常でないと言ったのは君のことだよ」
「わたしは、ちゃんと正常ですよ?」
「先程ファイルの文字を見ただけで狼狽したな」
「それはさすがに言い過ぎでは……」
「これだけは言っておく。私はね、葵くん――……」
それから程なくして、見計らったかのようにワカバさんが書斎に顔を出した。
「とうせいさんばっかりあおいちゃんとお話ししてズルいわ~」
なんて言いながら彼女は、机に突っ伏してしまった彼にそっとブランケットを掛けた。彼女曰く、そんなにお酒も入っていないからすぐに起きるだろうとのこと。
「あおいちゃんも今日は疲れたでしょう? ゆっくりお風呂に入って、たっぷり癒やされてきて」
「お話は、また今度ね」と、可愛らしく彼女はウインクして書斎を後にした。
「……おやすみなさい」
『君たちの、楽しそうな遣り取りや笑った顔がまた、見たいだけなんだよ』
お話は……――――また、今度に。



