あの時は、いきなりヒナタくんが話を切り出したこともあったし、それによく知っている方たちだからこそ、酷く心臓がオーバーワークしていた。イコール、真っ白だったのだ。頭の中が。
心情を知ってか知らずか。目を伏せた彼は、静かに笑みを浮かべていた。
「私はとても誇りに思うよ。君を、そして自分の息子を――……」
『葵くん。一応訊いておく』
『は、はい』
『我が息子ながらこいつには、性格その他に酷く問題がある。そこは断言しておく』
『……ちょっと父さん、どういうこと』
『容姿はいい方だろう、だが我が息子ながらどうしてこう育ってしまったのかと……いや、私が全て悪いんだが』
『え。反対なの? ねえ、反対なわけ??』
『はっきり言う。君にはもっと相応しい相手がいるのではないのか。正直こいつに君は手に余……いや、勿体ない』
『おーい、父さーん』
『それに少々君に対して、恐ろしいまでの執念や執着がこいつにはあるだろう。……いいか、考え直すなら今のうちだ』
『実の息子をそこまで言うかな……』
『安心しろ。女装癖があっても翼は自信を持って外に出せる』
『……オレの扱い酷すぎじゃない?』
わたしは、その時のことを思い出して顔が熱くなるのを感じた。
「あっ、あの時は、もう少し違ったことを言えればよかったんですけど」
「何を言っているんだ。……これ以上ない言葉だったよ」
『ねえ、あんたもそう思うよね』
『へ? ……全然?』
『……は??』
『寧ろそのまんまだなーと』
『……一応彼氏の父親の前なんだけど』
『よくよく息子さんのことを理解していらっしゃるんだなと』
『じゃあ何か、あんたはこんなダメな弟よりも、女装癖のある兄貴の方がいいっていうの』
『そんなこと言ってないじゃない。まあ一般論から言えば、お兄さんの方がしっかり者だし大人だし、気遣い上手でかっこいいよね』
『ごめん父さん、こいつやっぱりオレの彼女じゃないから。今までの遣り取りはなかったことにして』
『わーわー! ごめんって! 今頭真っ白で、あまり取り繕ったこと言えなくてつい本音が』
『ちょっとこいつ、外に埋めてくるね』
『ちょ、ちょっと待とうヒナタくん。落ち着いて話をしようじゃないか。目がマジだぜい』
『本気と書いて、マジと読む』
『なんで!? 実の彼女に向かってそんなことをするのか君は!』
『その実の彼女に、オレは悪口を言われたんだけど。父親の前で』
『あはは。決して悪口を言ったわけではないんだけれど……』



