「減俸は無しってことで、……いいんだよね?」
「はい。あ、もしかしてバイト中でした?」
「連絡をもらったときはまだね。ていうか俺出てきて大丈夫だった? 減俸しか考えてなかったから一目散でここまで来たけど」
「はい。話すより直接会った方が早いかなって。もう隠さなくて済むようなので」
なんで、当たり前な顔をして、こいつの隣に立っているんだ。
けれどこいつがここに来た瞬間、オレは妙に納得してしまったんだ。
「……もしかして、あんた」
「俺の自己紹介をしてると日が暮れちゃうから、まあさらっとだけ」
「もう外真っ暗だけど」
「君の予想通り、俺は警察の関係者。シズルでもゼロでも、好きな方で呼んでくれて構わないよ」
【―0―】
ならこいつも、コズエ先生と同じ可能性が高い。自己紹介を省いたのはそのせいだろう。
「弟くんは確か雨宮にこう言ったんだよね。『その話、オレからあいつに、してやってもいいですか』って」
「……コズエ先生」
「口が軽くて悪かったね。本来は相応の処分をするところなんだけど。今回の事件、彼女の判断で救われたところは多くある。だから、できれば大目に見てやってくれると嬉しいんだけど」
「さらっと話すり替えないでください」
「あ。バレちゃったか」
けれど、今の話だけで収穫はかなりあった。そして様子を見る限り、オレが知らないところでこいつらは、何度も接触を繰り返していたんだろう。
「あんたとこいつの関係って」
「部下と上司。一番わかりやすく言うとそんな感じ」
「いつから」
「それはちょっと濁しておくよ。いつから俺と不倫してたとか、あんまり聞きたくないでしょう?」
「ふざけんな。オレは真面目に聞いて」
「ごめんね。こちらにはそんな無駄な話をしている時間はないんだ」
物腰も言い方も、確かに柔らかかった。ただ、雰囲気だけが、一瞬で鋭くなる。
……あのときと同じ。呼吸をすることさえ、難しいほどに。
「葵ちゃん、急で悪いけど予定が少し早まった。今すぐ本庁に行くよ」
「え。今からですか?」
「理事長には報告済み。執行部の仕事はみんながフォローするって」
「……そうですか。わかりました」



