「いでっ!」
「わ、悪い」
たので、ひとまず冷静になれた。おでこが痛いけど。
「……? あいつが、どうしたの」
「いえね? あおいちゃんが」
「若葉」
「あら、あなた。どうかしたの?」
「鍋吹き零れてる」
「まあ大変!」
ワカバさんは、慌てて台所に走って行ったようだ。
そして、ナイスプレーをとことんしてくれるトウセイさんがその場に残る。
「日向」
「なに父さん」
「よかったら今度、あの子を連れてきなさい」
「え?」
「いつも向こうの家で世話になっているそうだな」
「そう、だけど。どうしたのいきなり」
「いきなりでもない。言うタイミングが掴めなかっただけだ。それに、花咲の奴に世話になりっぱなしなのも性に合わん」
「……つまり、負けっ放しみたいで嫌だと」
「そうだ」
「ははっ。うんわかった。じゃあまた今度連れてくるよ」
「そうしなさい。母さんも喜ぶ」
「うん。あいつもきっと喜ぶ」
どんな表情で、そんな台詞を言ってくれたのだろう。どんな思いでわたしを呼ぶと、そう言ってくれたのだろう。
彼の知らないところでこっそり話を聞いた罪悪感はあるけれど。無性に今、ここから飛び出して、彼の胸に飛び込んでしまいた――
「ツバサ? ハルナの部屋にいるんだよね?」
「「――!?」」
しまいたくなったけれど、すぐそこの扉から聞こえた声に、二人同時に心臓が口から出そうになった。
「……ツバサ? いるんでしょ、開けるよ」
「「――!!??」」
否、出た。



