すべての花へそして君へ③


「いでっ!」

「わ、悪い」


 たので、ひとまず冷静になれた。おでこが痛いけど。


「……? あいつが、どうしたの」

「いえね? あおいちゃんが」

「若葉」

「あら、あなた。どうかしたの?」

「鍋吹き零れてる」

「まあ大変!」


 ワカバさんは、慌てて台所に走って行ったようだ。
 そして、ナイスプレーをとことんしてくれるトウセイさんがその場に残る。


「日向」

「なに父さん」

「よかったら今度、あの子を連れてきなさい」

「え?」

「いつも向こうの家で世話になっているそうだな」

「そう、だけど。どうしたのいきなり」

「いきなりでもない。言うタイミングが掴めなかっただけだ。それに、花咲の奴に世話になりっぱなしなのも性に合わん」

「……つまり、負けっ放しみたいで嫌だと」

「そうだ」

「ははっ。うんわかった。じゃあまた今度連れてくるよ」

「そうしなさい。母さんも喜ぶ」

「うん。あいつもきっと喜ぶ」


 どんな表情で、そんな台詞を言ってくれたのだろう。どんな思いでわたしを呼ぶと、そう言ってくれたのだろう。
 彼の知らないところでこっそり話を聞いた罪悪感はあるけれど。無性に今、ここから飛び出して、彼の胸に飛び込んでしまいた――


「ツバサ? ハルナの部屋にいるんだよね?」

「「――!?」」


 しまいたくなったけれど、すぐそこの扉から聞こえた声に、二人同時に心臓が口から出そうになった。


「……ツバサ? いるんでしょ、開けるよ」

「「――!!??」」


 否、出た。