ひとまず、コートや荷物を置きに、以前使わせてもらったことのあるハルナさんの部屋に通してもらった。
「……ちょっといいかな、ツバ兄さんや」
訊きたいことが、あるんだが。
「会いたかっただろ? 母さんと父さん」
「それは勿論会いたかったさ!?」
仕事の都合で、無事退院したワカバさんには一度会ったきりだったし、トウセイさんにも、まだお祝いも常日頃の感謝も言えていない。直接会えて、それはそれは嬉しゅうございますとも。
「資料見た時、まだ二人のところは空白のままだったからな。余計なお世話だったか」
「だからって、そんな意地悪しなくてもいいじゃん」
「でももし日向がいたら、本気で会わないつもりだったろ?」
「……まだ、会えないから」
ふうと一つ息を吐いて、わたしは潔く観念することにした。
「だって、わたしはまだ何もできてない。このままじゃ――」
――しかしその時、下の階で大事件発生。
「あら! ひなちゃんおかえりなさい。夕ご飯は?」
「ごめん母さん、物取りに一旦帰ってきただけなんだ。今日はチカの家に泊まるから」
「あらそう。残念ねえ」
「……じゃあ、明日は母さんの得意料理にしてよ」
「合点承知の助!」
今日は帰ってくる予定ではなかったはずのヒナタくんが、家に帰ってきたのだ。
どうやらこれは予想外の展開らしく、ツバサくんも動揺が隠し切れていない。
「……取り敢えず黙ってろよ、1ミリも動くな」
「が、合点承知……!」
ヒナタくんの部屋はこの部屋のまさに隣。取り敢えずわたしたちは、扉のすぐそばで聞き耳を立てることにした。
とんとんと聞こえる、階段を上ってくる音。それがだんだんと近付いてくる度、わたしの心臓も可笑しなぐらい速くなっていく。
「あ、ひなちゃん? そういえばあおいちゃんが」
「ワカバさん!?」
「母さん!?」
それ以上に速くなり始めた心臓さんに、思わず出て行きそうになってしまったけれど、ツバサくんに思い切り壁に押さえつけられ――



