脱いだ制服を椅子にかけ、ついでにネクタイも外した。くそう。朝からなんて日だ今日は。
「それでー? なんで夕べは徹夜なんかしてたの?」
皿にハムと目玉焼きを乗せてくれながら、母はその答えがまるでわかっているような顔で笑う。
「日記読んでた。母さん作」
「物語と言ってちょうだいなせめて」
「誤字脱字がちらほらあったから直しといた」
「え?! 嘘!」
「それでさ、またいくつか気になったことができて」
「そんなこったろうと思った」
いっぱい読んでくれてありがとう、史春。
言外と、その笑顔に含まれた感謝に少し照れながら、続きを話そうとしたところを、牛乳をコップに注ぐ動作で止められた。なんてったって、こぼしたら臭いからね、牛乳。
「その質問に答える代わりに、条件がある」
「え」
そんなの、今まで出されたことなんか一回もないのに。
もしかしたら母は、聞かれる内容についてある程度の予測がついているのかもしれない。母ならそんなのお茶の子さいさいだろう。それに、その内容を聞くためには、少なくとも代償が必要なのかも。
ごくりと、緊張を飲み込んで、オレは静かに頷いた。
「来週、お母さんにネクタイ結ばせてくれる?」
え。何その願ったり叶ったり。
寧ろお願いします。やった!
「それはそうと、なんで?」
「ん? ……大切な日は、それをして見送るって昔から決めてるから」
それを聞いて、ふと夕べ読んだ日記の内容を思い出す。父にもそうしていたように。きっと母にとってそれは、その日何よりも大切なんだなと、優しい笑顔に悟る。
「けど、……ふわあ~。質問に答えるのは、一眠りした後でもいいかな?」
「うん、……ふわあ~……。……うつった」
「あは! 本当だね!」
「……ねえ母さん」
「ん?」
「さっき言ってたの、本当?」
「もちろん! あ、どうせならリビングにお布団敷いちゃおっか」
「ついでに、寝落ちるまでまた昔の話聞かせて欲しい」
合点承知の助!
そう言って笑った母は、オレの頬に付いていたらしいご飯粒を取って食べた。



