「……ふう」
物語を繋ぐ自分の過去エピソードを書き終えたオレは、静かに筆を置いた。
そして、傍らに置いていた分厚い本に、そっと手を伸ばす。長い長い間綴られてきた物語は、ここで一つ区切りを終えていた。
幾度、読み耽っただろう。
何回、何十、何びゃ………………いや。ごめんなさい。百はまだいってないかも。
けれど、読む度に思ってしまう。ここに記されたものは、なんて非現実的なものなのだろうか、と。
そして、同時に身を以て知るのだ。いやでも思い知らされるのだ。
「……登場人物が、身内だもんな……」
読み過ぎで傷んでしまった分厚い本と目蓋を閉じ、オレはいつぞやのように本を抱えたままごろんと寝っ転がった。
「史春! しーはーる!」
「……千晴。スカートん中見えてる」
「もうっ、また朝まで本読んでたの?」
「……え?」
妹に言われ、寝転がっていた体を再び起こす。本が傷むのがいやだからとお願いをして買ってもらった、厚手のカーテンの隙間からは、眩しい光が何筋か差し込んでいる。
「どうせ徹夜でもしてたんでしょ」
どれどれ~? と悪さをしようとする奴を目掛け、思わず足を投げ出した。
「へぶっ!」
予想通り、顔から派手に転んだ。椅子の角にぶつけたみたいだけど、大丈夫かな。
「い、ってて……」
「ごめんちー。大丈夫?」
「いやいや、これはしーの机を勝手に覗こうとした天罰だから!」
足を引っ掛けられたことがわからなかったのか。それとも、オレに気を遣っているのか。
本当のところはわからないけれど、わかりにくい妹の優しさに、オレは小さくありがとうとこぼした。
「それはそうと! 早く支度しないと遅れるよ!」
「……? 何に?」
「何って、入学式!」
「……あれ、今日だっけ」
質問に答えないまま、クローゼットを漁られ、ポイポイと着ていく服を投げ付けられる。
「ほらほら、早く着替えて。置いて行っちゃうぞー」
荷物まで準備してくれようとしている双子の妹に、もう一度声をかけてみるけれど。一つのことに集中すると、まるっきり人の話を聞かないもんだから、しょうがなしに出された服へ袖を通す。
「よいせ。こんなもんでしょ!」
「ありがとう」
「いえいえー。でも、本当に早く降りて来なね」
今日は、お母さんの朝ご飯なんだから。
そう言った妹は、にひっとした笑顔を残して去って行った。
「ちょっと。帰ってきてるんならそれ一番に言ってよね」
大急ぎで身支度を調え、鞄を引っ掛ける。



