すべての花へそして君へ③


「……ふう」


 物語を繋ぐ自分の過去エピソードを書き終えたオレは、静かに筆を置いた。
 そして、傍らに置いていた分厚い本に、そっと手を伸ばす。長い長い間綴られてきた物語(にっき)は、ここで一つ区切りを終えていた。

 幾度、読み耽っただろう。
 何回、何十、何びゃ………………いや。ごめんなさい。百はまだいってないかも。

 けれど、読む度に思ってしまう。ここに記されたものは、なんて非現実的なものなのだろうか、と。
 そして、同時に身を以て知るのだ。いやでも思い知らされるのだ。


「……登場人物が、身内だもんな……」


 読み過ぎで傷んでしまった分厚い本と目蓋を閉じ、オレはいつぞやのように本を抱えたままごろんと寝っ転がった。


史春(しはる)! しーはーる!」

「……千晴(ちはる)。スカートん中見えてる」

「もうっ、また朝まで本読んでたの?」

「……え?」


 妹に言われ、寝転がっていた体を再び起こす。本が傷むのがいやだからとお願いをして買ってもらった、厚手のカーテンの隙間からは、眩しい光が何筋か差し込んでいる。


「どうせ徹夜でもしてたんでしょ」


 どれどれ~? と悪さをしようとする奴を目掛け、思わず足を投げ出した。


「へぶっ!」


 予想通り、顔から派手に転んだ。椅子の角にぶつけたみたいだけど、大丈夫かな。


「い、ってて……」

「ごめんちー。大丈夫?」

「いやいや、これはしーの机を勝手に覗こうとした天罰だから!」


 足を引っ掛けられたことがわからなかったのか。それとも、オレに気を遣っているのか。
 本当のところはわからないけれど、わかりにくい妹の優しさに、オレは小さくありがとうとこぼした。


「それはそうと! 早く支度しないと遅れるよ!」

「……? 何に?」

「何って、入学式!」

「……あれ、今日だっけ」


 質問に答えないまま、クローゼットを漁られ、ポイポイと着ていく服を投げ付けられる。


「ほらほら、早く着替えて。置いて行っちゃうぞー」


 荷物まで準備してくれようとしている双子の妹に、もう一度声をかけてみるけれど。一つのことに集中すると、まるっきり人の話を聞かないもんだから、しょうがなしに出された服へ袖を通す。


「よいせ。こんなもんでしょ!」

「ありがとう」

「いえいえー。でも、本当に早く降りて来なね」


 今日は、お母さんの朝ご飯なんだから。
 そう言った妹は、にひっとした笑顔を残して去って行った。


「ちょっと。帰ってきてるんならそれ一番に言ってよね」


 大急ぎで身支度を調え、鞄を引っ掛ける。