思わず叫んでしまった寂しさに彼は驚くことなく、ただただ優しく頬を緩める。
『知ってる。……わかってる』
言葉にはせず、ぽんぽんと頭を撫でた。
「……失礼致しました」
そうされているうちに、いろいろ落ち着いた。とんだ辱めを受けたくらいには恥ずかしいし、落ち込んだ。
どうしてわたしは、いつだってこうなのか。
はああと大きくため息を落とすと、それにも彼は、ふっと笑みを浮かべた。
「あいつのためになると思った」
「……え?」
「結局はそういうことだったんだろ?」
「……」
「アンタが自分のためだけに動くわけないじゃない。そんなの、アンタを知ってる奴なら誰だってわかってるわよ」
「そんなことないよ。みんなわたしを美化し過ぎだ」
心の中は、いつだってどろどろだ。
寂しさには蓋をして、罪悪感には見て見ぬ振り、そうしたのはさせたのは、他でもない自分自身だというのに。
会いたいし、触れたいし、抱きしめたい。姿だって見たいし、ちょっと低くなった声だって聞きたい、黒くなった柔らかい髪だって、ずっと撫でてたい。
そんな様々な感情や欲望がいつも渦巻いていて、気を抜くとすぐに湧き上がってくるんだ。……本当に下らない、ちっぽけな怒りと一緒に。
「一応、今は下心全くないからな」
わたしの手を、彼はそっと握った。ご丁寧に、そんな言葉を添えて。
そういえば前に、彼は言っていたっけ。触れ合ったところから、わたしの悪いものを吸い取っていると。
「……ねえツバサくん?」
「何だよ」
「“今は”って?」
「……お前、なんでいつもこのタイミングなんだよ」
「ん? そうでもないけど、なんなら少し前にスルーしたことでも掘り返そうか」
「掘り返すな」
こんな冗談を言えるくらいには、もうだいぶ吸い取ってくれたらしい。
ありがとうと感謝を述べると、わたしの表情を見てから彼は、ゆっくりとその手を離した。
「んじゃ、帰るか」
その手がそのまま、背中をそっと叩いていく。どうやら、そうやって励まされてしまうくらいには、相当落ち込んだ顔をしていたらしい。
それが悔しかったせいか。それとも、ヘルメットからドラムの音が聞こえなくなったせいか。帰る道程、何だか無性に物足りなさが残った。
(それに結局、ツバサくん訊いてこないし)
わざわざ会ってしたいほどの話とは一体何なのか。連絡が届いたときは一瞬そんなことが頭を過ぎったけど、本当に瞬く間に過ぎ去っていった。
(ツバサくんのことだ。どうせ自分に訊けって言うに決まってる)
そんなことを考えていたら、無性の物足りなさがむかむかに変わった。
腹癒せに、信号待ちの間ツバサくんの横っ腹を抓んだ▼
即座に拳骨を食らった▼
かなりのダメージを食らった▼
イライラしても、いいことないなって。
深く反省したのだった。



