「……もしかして、起きて待っててくれたの……?」
腕を組んだ体勢でソファーに座っているヒナタくんは、静かに寝息を立てていた。
結局、朝帰りになってしまったけれど。待たせてごめんねと、待っててくれてありがとうと、そっと眠る彼の頭を撫でる。
「……ん……」
「あ」
このままソファーへ横にならせようか、それとも寝室まで運ぼうか悩んでいると、まるで後者を阻止するかのようにヒナタくんの瞼がゆっくりと押し上げられる。
「おはようヒナタくん。待っててくれたんだね」
「……ああ、うん。まあ一応……」
おはようと、小さく笑った彼は、親指でそっとわたしの目元を撫でていった。
「結構泣いたんだね」
「あはは。ええまあ。あのあとも大号泣でして……」
よしよしと、今度はわたしが頭を撫でられた。
「コーヒー入れて」
「うん。ちょっと待っててね」
まだ少し眠そうではあったけれど、どうやらもう起きるらしい。
んんーと伸びをした彼は、大きな欠伸をしながらカップと新聞を受け取った。
「夕べさ、ちょっと考えたんだけど」
一口コーヒーに口を付け、新聞を広げながらさも彼は「今日の朝ご飯何?」ぐらいのテンションで、さらっと言ってのけた。
「やっぱ挙げない?」
「……ん?」
「結婚式」
「……へ」
危うく、コーヒーを噴き出しそうになっていたわたしを尻目に、ヒナタくんは話を続けた。
「クルミさんのことは、オレも昨日本人から直接話を聞いたんだ。カナタさんは、少し前から聞いてたみたいだけど」
その時、話をしたそうだ。
『その梓さんが、一番初めに何らかの症状を発症したのがいつか知ってる? かなり前の話よ』
そう考えたら、結果進行性が早いものってわけじゃなし。今すぐどうこうというわけじゃなし。下手したら、普通の人と何ら変わらないかもしれないし。
それに、もしかしたら何か突破口が見付かるかもしれないのに、弱気になってる場合じゃないって。
「クルミさんもさ、逞しい人だよね。『男たちが頼りなさ過ぎて任せてられない!』って。ヒイノさんとあんたの妹は、妙に納得してたけど」
男たちのオレらからしてみたら、ちょっと納得はいかないよねと。彼は小さく肩を竦めた。
「それで、思い出作り……とか。そういう括りにするのはなんかちょっと寂しいからって言ってたけど、まあ所謂そういうことしたいよねって」
「最近そういうことなかなかできてなかったし、それはあおいも考えてるでしょ?」と、彼はわたしの目元にもう一度指を這わせた。



