偽りない、心からの母の言葉に、わたしはくぐもった声で「なんで……」と反射的に答えていた。
「だって、じゃないとあおいに会えないじゃない」
「……っ、へ?」
「んー確かに、嫌だなって。なんでなのーって、思ったことがないわけじゃないわ? けど、だからわたしはお父さんに出会って。そしてあなたを授かった。勿論、あなたの妹にもね?」
「……っ」
「だから。わたしは、これから何度だってよかったって思うわ。だって、今心から幸せなんだから」
「……っ。おかあ、さんっ」
いやだ。いやだいやだいやだ。
大人にもなって、こんなにも無意味な我が儘を繰り返すことになるとは、思ってもみなかった。
「我慢しなくていいのよ」
母は言う。
だって、どれだけ大人になったって、わたしにとってあなたは、大事な大事な子どもだものと。
「……大丈夫よ、あおい。あなたは強い。だって、わたしの娘なんだから」
わたしも、母のようになれるだろうか。強くて、やさしい、母のように。
「……おかあ、さん……」
「ん?」
「わたしに、なにかしてほしいことある……?」
「……ええ。たくさんあるわ」
――まずは、可愛い笑顔を見せてちょうだいな。
その日。わたしはずっと泣いた。泣いて。泣いて泣いて泣いて。最後の最後になんとか笑うまでずっと、どうにもならないわたしの我が儘を、母はやさしく受け止めてくれていた。
(お母さんの願いを、一つずつ叶えていこう!)
翌日。腫れぼったい目を何とかこじ開け。染みるほど眩しい朝日に背中を叩かれながら、出勤前に一度家へ戻ることにした。子どもたちは、昨日朝日向に泊まったヒイノさんたちが見てくれているらしい。
「……ただいまー……」
恐らくヒナタくんはまだ眠っているだろうから、起こさないようにそうっと玄関を開け、ダイニングへ直行。ちゃちゃっとコーヒーでも飲んで、お弁当を作ろうとしたところで、リビングにいる人影に気が付く。



