妹に子どもを任せ、別室にヒナタくんと移動する。移動している間、何も言えずずっと俯いたままのわたしの手を、ただ彼は大丈夫だと言い聞かせるみたいに強く、握り締めてくれていた。
「うわっ」
背中で扉が閉まると、後ろから軽い衝撃。
「どーしたのー」
後ろから、すっぽり包み込まれるような形で抱き締められる。
握った手、背中のあたたかさに、おさまりかけていた涙が、再び込み上げてくる。
「……きょうね」
「うん」
「ずっと。もしかしたら……って」
「……」
「あたまのなかでおもってたことを。はっきりことばにされて……」
「……ん」
「……ああ。やっぱり。そーなんだなあって……」
「……うん」
「……ちょっとね。つらかったの」
「……」
「ちょっとだよ? ……ほんとうに。ちょっとだけだもん」
「……」
だからね……? だから、少しだけでいいの。
「……も、もうすこし、したら。ちゃんとなきやむから。だから……」
「……うん。大丈夫」
――そばにいるよ。
それで、堪えていたものは決壊した。
振り返って彼を見上げたら、わたしと同じように泣きそうな顔をしていて。……ああ。もしかしたら彼もまた、聞いていたのかもしれないと。
父も、祖父も、ヒイノさんもミズカさんも。もしかしたらお母さんも。聞いていたから今日、ここにみんな、集まっていたのかもしれないと。だから妹は、もうわたしが来る前からおかしな空気を察していたのかもしれないと。……思ったら余計、後から後から涙がこぼれてきて。
「大丈夫。……落ち着いてからでいいよ」
何が大丈夫なの。大丈夫だったらそもそも泣いてなんかないもん。
けど、そんなことヒナタくんに八つ当たりしたところで、何にもならないんだ。
だからわたしは、ただただ何もできない悔しさを必死に堪えて。
一言、ありがとうと。奥歯を噛み締めながらただ、涙を流していた。



