走らせた車が、早々に赤信号に引っ掛かると、彼は隣で小さくチッと舌を打った。
「……どういうこと?」
「お前は、昔ほど上手く隠し事ができてねえってこと」
「……」
「いいことだと思うぞオレは。わかりやすいから」
青になり、再び走り始めた車の窓から見えた景色は、行きよりも早く流れていってるように思えた。
「心配してたぞヒナタも。何日か前から、ちょっと元気ないんだって」
「……そこまでじゃなかったと思うんだけど」
「それでも、わかる奴にはわかるだろ。ずっと一緒にいれば尚更。気にかけて見てれば、仕事中のオレにもわかる」
「……そうでしたか」
けど確かに、そこまで隠すつもりはなかったかもしれない。理事長と話をしたら、そのことは絶対、一番に聞いてもらおうと思ってたし。
そうこうしていたら、あっという間に朝日向のビルの前に着いてしまった。え、ちょっと早過ぎませんかチカさんや。
「お前が今一番にしないといけないことは?」
「え? ……話を、聞いてもらう?」
「違えよバカ。取り敢えず旦那に抱き締めてもらえ」
「えっ?!」
「それしなかったら、お前だけ店出禁にすっからな」
「ええ!? ちょ、それは困る!」
チカくんのご飯、美味しくて大好きなのに! 隠れ家みたいで、すごく居心地がいいのに! ていうか、次もあそこで女子会しようって約束したのに!
けれど、そんなことはどうでもいいと言いたげに、「オレが言ったこと守れよ。明日ヒナタに聞くからな」って、睨んだ彼はぶっ飛ばしてわたしの前から去って行った。
時刻を見ると、なかなかいい時間。そういえばチカくんのお店、夜の営業開始はもうすぐだったかもしれない。
だから、もしかしたら物凄い急いだのはそのせいかも。……きっと、そんなことはないだろうけど。
一人で言って、一人で否定して。答えのわからない疑問に一人小さくクスッと笑っていると、あっという間にエレベーターは、目的地へと到着する。
「あ。やっと帰ってきた。おかえ、り……」
「……ただいま。ひなたくん」
「……なんで、泣いてるの」
「……わかん。ない……」
楽しそうにしている、わたしの家族を見たからか。わたしのところへ、覚束無い足取りでやってくる我が子たちを見たからか。それとも、気にかけてくれていたヒナタくんを見て、安心したからか。
「しょうがないなあ。もうちょっとだけ子守しててあげるから、ちょっと二人で話してきなよ」
「え? でも……」
「いいから。あとは、妹に任せなさい。今の姉ちゃんのお仕事は?」
「……えっと」
泣いてしまったわたしを、抱き締めるように背中をさすってくれてるから、チカくんに課せられたことは、これでクリアってことでいいかな……。
わたしはヒナタくんの服の裾を掴んで、そっと体を預けた。
「ひなたくんに。ちょっと話を聞いてもらいます」
「その前に、ちゃんと抱き締めてもらいなさい」
本当、できた妹である。



