すべての花へそして君へ③


「カナデくんは、何となく想像つきそう」

「え? そ、そうかなー?」

「カナデの場合は……そうね。最初こそ頼りなさげに見えるけど、いざって時はちゃんとパパしてそう」

「うんうん! 子育てとか上手そうだよね」


 えへへと、恥ずかしそうに頬を赤くするユズちゃんは、「そうなんだよ~。実は子育ての本まで買って勉強してるみたいでー。今じゃあたしよりも詳しいの」なんて、嬉しそうな顔で話し始めた。


(……そっかー。カナデくんもパパになるのか)


 子どもが生まれたら、写真を撮って見せに行ってあげよう。孫に会えるその時まで、何度でも。


 壁に掛かった時計を見ると、ちょうどいい時間になっていた。


「アオイ、そろそろ時間だぞ」

「うん。ありがとうチカくん」


 実はこの後、人と会う約束をしていたのだ。
 時間的にも、その頃にはお昼のお客さんもいなくなるだろうし、夜の準備も終えているからと言うので、お言葉に甘えてチカくんに待ち合わせ場所まで送ってもらうことになっていた。帰るタイミングが合えば、残った二人もチカくんがおうちまでお届けしてくれるとのこと。

 次の約束をして。わたしはお店を後にした。


「んで? 行き先は」

「うん。……ちょっと、海棠まで」


 ――――――…………
 ――――……


『あおいちゃん。大事な話があるんだ。少しだけ、ぼくに時間をくれるかな』


 そう言っていたとおり、理事長の大事な話はすぐに終わった。


「よ。お疲れ」

「……あれ、チカくん?」


 てっきり帰ったとばかり思っていたのに。どうやら、話が終わるまで待ってくれていたらしい。


「言ってたとおり本当にすぐだったな」

「うん。わたしもビックリ……」

「ま、乗れよ。朝日向まで送るから」

「……いいって言っても、乗っける?」

「嫌だっつっても連れて行く」

「……はは。そっか」


 連絡をもらった時から、あまりいい話ではないことは何となく想像がついていた。
 もしかして――と、話の内容も、何となくわかっていて。できることなら、気付かない振りを、ずっとしていたかった。

 だから話を聞いた後は、今頃頑張って子守をしているであろう彼らの元へ。一人でゆっくり考えながら、答えを出そうと思っていたのに。


「チカくんってば。そこまで格好良くならなくていいんだよ」

「いや、そんな気更々ねーよ」


 彼が待っていたのは、もしかしたら別れ際に、ちゃんと笑えなかったのが原因なのかもしれない。よく見てるんだから、全く。
 小さくため息をこぼすと、それ以上に大きなため息を吐かれてしまった。


「あのな、美化してくれてるところ悪いけど、オレは、お前の旦那に言われて気にしてただけだから」

「え?」