出てきた名前に、ふっと一瞬気が緩みそうになる。
それを必死に堪えて、なるべく普段通りの声を出した。
「ヒナタくん、元気してる?」
「気になるんなら連絡入れてみたらいいんじゃない?」
「それは、そうなんだけど……」
鞄から出したスマホを、ぽんと手の平に乗っけた。
「今わたし、スマホ持ってなくて」
「は……?」
いやいやいや。お前にはこれが何に見えるんだと言いたげに、彼は顔を顰めた。まあ、そうなってしまうのも無理ないことなんだけど。
これは、仕事用に渡されたもの。情報漏洩の場合があるため、今スマホは没収されているのだ。
隣の彼と連絡が取れた時も、すでに自分のスマホは没収され手元にはなかった。けれど、連絡が来た場合は必要に応じて中身を確認されるが、何も問題がなかった場合、きちんとわたしに連絡が下りてくるようになっている。
「……その、お前のスマホを預かってる人って、どんな人?」
「んーと、お仕事の相棒? その人は上司と部下って言ってたよ」
「因みに、日向はそいつのこと知ってんの」
「え? う、うん。一応」
「そいつ、人苛めるの好きだろ。日向と一緒で」
「すごーい! よくわかったね!」
「成る程な」
「……何が??」
深く深くため息をついた彼は、何かを納得したらしい。
けれど、それはもういいのか。再び話は、彼に連絡をするしないの話に。
「しようと思えば、何らかの形でできるだろお前なら」
「……まあね」
「理由がある、と」
「……ある程度片がつくまでは、しないって決めてて」
「他にもありそうだな」
「あとは、……自分への戒め、かな」
「戒め? なんで」
「ずっと、隠してたから」
そして、彼が苦しむと。傷付くとわかっていて、わたしは仕事をすると、勝手に決めてしまったから。
「でも一番の理由は怒ってるからっ」
「……」
何かを言いかけた彼は、一度ゆっくりと口を閉じた。
そして、唇を違う形に……変えようとしたところで、思い切り噴き出した。そんなにわたしが怒っていたら可笑しいのか。
「はは、あーそうか。そう話が繋がるわけか」
「……? 何がどう繋がったの?」
「怒ってる? ……拗ねてるの間違いだろ」
「ちょっと、スルーしないで」
「言わねえよ。お前たちの問題だろ」
「えー。気になるー」
「だったら、一回くらい連絡入れてやったら?」
「入れたもんっ!」



